小ネタ 偽典の上琴
「よっす~。クッキー焼いてきたよ~」
「おお、美琴か。ちょうど良かったな。今コーヒー入れ始めた所なんだ」
「じゃあ牛乳も入れて。私カフェオレの方がいいな~」
夏休みに入って、俺と美琴、二人一緒に過ごす時間が増えた。
まあ、去年はインデックスが居てとてもスリリングな夏休みを送れたけど、彼女は今小萌先生の所でお世話になっている。
時々訪ねてくることもあるけど、会う回数は美琴の方がずっと多い。
鍵も家計簿もチャンネル争いの主導権も街中デートで俺の腕を引っ張る役もみんな美琴がかっさらい、
もはや美琴が通い妻のような状態となって、同居人だったインデックスよりも断然俺を楽にしてくれた。
今日の美琴も荷物を置いてスタスタとキッチンに向かい、戸棚から手早く皿を取りだして、クッキングペーパーを敷き、持ってきたクッキーを入れた。
さらに冷蔵庫を開けて牛乳をささっとカウンターに置いて俺に渡す。
皿の置いてある所とか冷蔵庫の中の牛乳の位置をしっかり覚えているあたり、もう恋人というより奥さんと呼べそうな感じだ。
「お前、砂糖は?」
「いらなーい。クッキーが思ったよりも甘く仕上がったから、そのままでも平気よ」
「そっかー。んじゃ、俺はブラックのままでいいや。氷もつけとくか?」
「ん~、氷入れると薄まっちゃうのよね~。外は暑かったけどここはクーラー効いてるし、自然にさめるのを待つわ」
「ブラックのままだと熱いし濃すぎるので上条さんは入れよ~っと」
学園都市製の耐熱グラスカップに熱いコーヒーが注がれる。
半分ほどの所で注ぐのをやめ、一方には牛乳を、もう一方には氷を入れる。二つをテーブルの上に置き、先に俺がソファーに座る。
美琴はクッキーの入った皿を手にして俺の前まで来た。
「?どうした、座るなら座れよ?」
「う~ん、なんか面白くないわね」
「座り方に面白いとかねーだろ。こっちに座れよ」
俺は右手でソファーの上のクッションをポンポンと叩いた。美琴はよく俺の他愛ない一言でビリビリと怒ったりする。
だから寿命を縮めない為にも幻想殺しの射程圏内に美琴を座らせなければならない。いざというときには右手で美琴の頭を押さえつければ電撃が防げるのだ。
「コーヒーならまだ冷めてないから、待ってるにしても座っている方が楽だぞ」
「う~ん、そうねぇ……!!そうだ!ここにす~わろっと!!」
すとっと、美琴は俺の膝の上に座った。俺が右手で叩いたクッションの上に足を置き、体をぐーんと伸ばした。
これには俺も驚いた。
「お、おい美琴!?そんなとこに座って行儀悪いだろうが!普通にここに座れよ!」
「いいじゃない。なんか座り心地良さそうだし、背中もぐーんって伸ばせるから楽々よ」
「楽々よって、お前なぁ……支えがないと落ちちまうだろうが。それに左手が塞がってクッキー食べれねーだろ?」
「右手があるじゃない?」
「お前がいつビリビリするかわからないだろ。右手は上条さんの防護壁なんです」
「むう、なんかムカつく」
「そんなことより、この状態じゃ俺が食べれねーだろうが。早くどけって」
「だいじょーぶ!!ほれ、あ~ん」
「………美琴さん?あなたは今上条さんに餌付けしてるんですか?」
「だって食べれないんでしょ。ほれほれ、口開けてよ?」
「……………」
ぱくっ もぐもぐ ごっくん
「はい、お利口さん。お味はどうですか?」
「…確かに少し甘いな。でもクッキーってこんなもんだろうし、いいんじゃねーか」
「良かったぁ~。じゃあもう一つ、あ~~~ん」
「おまえなあ、その台詞もういいって。あ~~―――」
ひょい ぱくっ もぐもぐもぐ ごくん
「なっ!!?おい、てめぇなぁ!!フェイントとかなしだろ!!!」
「あーおいしかった。だって食べたかったんだもん。もう、そんなに怒らないでよ。
……あれ、もしかして不貞腐れちゃった?」
「フンだ。美琴が意地悪するから上条さんはご立腹です」
「もう、しょうがないわね。じゃあこれで許してよ」
美琴は皿からクッキーを一つ摘み上げた。
そして美琴の口で少しクッキーをくわえると体を起こして、俺に差し出した。
「な!?お前、なにを!!?」
「はひゃくくわぁうぇなふぁいよ。おふぃふぁうでひょうが!(早くくわえなさいよ。落ちちゃうでしょうが!)」
美琴が俺をじっと見つめている。それだけで美琴のしたいことが俺にはわかる。
なので仕方なく俺も首を伸ばしてクッキーをくわえた。
ぱきん もぐもぐ もぐもぐ ごくん ごっくん
「はい、よくできました。じゃあ次は……」
「あーまてまて。お前に餌付けされるだけじゃなんか癪だし、次はこうしよう」
俺は右手で皿から一つクッキーを摘むと、美琴と同じように少しくわえた。
「ふぁい、めふぃあがれ(はい、めしあがれ)」
「は~い、あ~~―――」
ひょい ぱく もぐもぐもぐもぐ
「あーー!!ひっどぉーい!!!!なによ、さっきはあんなに怒ってたく、んむっ――!!!??」
ちゅう ぺちゃぺちゃ くちゃくちゃ ごっくん ごくん
「……これ結構恥ずいな。なんかむずむずしてきたわ」/////
「…………ねえ」/////
「ん、なんだ?」///
「いきなりで味がわからなかったから、もう一回やって?」/////
「…………」////
ひょい ぱく もぐもぐ ちゅう ぺちゃぺちゃ くちゃくちゃ ごくん ごっくん
「……すごく甘くなったわね、これ」////////
「……ああ。そろそろコーヒーも冷めたし、飲むか」///////
「うん……」////
美琴が立ち上がり皿をテーブルに置く。俺も立ち上がりテーブルに着いた。共に顔が真っ赤になっていた。
「…じゃあ、飲むか……」////
「ええ……」////
ごくごく んんっけほっ
「んっ、少し苦いな。豆の量が多かったかな?」
「あれ?当麻ってコーヒー豆挽くようになったんだっけ?」
「いくらか金が入ったからコーヒーメーカー新しくしただろ。
それに付いてる豆挽くやつで作ることにしたんだ。手間掛かるけど、結構面白いぞ」
「ふ~ん……ねえ、苦いんならカフェオレ飲んでみる?」
「ああ、いいね。少しくれよ」
「それじゃあ……」
ちゅうちゅう
「……お前、まさかまたかよ…」
「ん!!んんっ!!!」
「…しゃあねーな……」
ちゅう ごくごく
「ぷはっ!!どお?おいしかった?」//////
「………砂糖入れたかこれ?」/////
「えっ?入れてないけど?」////
「……甘過ぎだよこれ…」//////////
「……もう、当麻ったら」//////////
二人はテレテレしながら、今日も一緒に過ごしていく。クッキーよりも甘い甘い午後の一時を。