とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある少女の悪巧み―シリアスver― 1



12月下旬、この日番外個体は上条と美琴に会うため第7学区の『あの』公園に来ていた。

第3次世界大戦が終わり、上条が学園都市に帰ってきて1ヶ月ほどが経ったいた。
そして最近は上条に美琴が付きっきりで勉強を教えている、
という情報を番外個体が偶然手に入れ、その際に悪巧みが生まれたことが今回の騒動の始まりだった。

その悪巧みとは自分が未来から来た2人の子どもだと言い驚かす、という企みだ。
学園都市に戻って来て1ヶ月ちょっとが経ったが、番外個体は未だ上条とも美琴とも面識はない。
一方通行が上条に自分のことを話したこともないようなので好都合だ。

だが会うため、とはいってももちろん会う約束などはしていない。
だから事前に最近の上条と美琴についていろいろと調べて、この公園で待ち合わせをしていることを知ったため、ここにやってきたというわけだ。

「さ~て!どこにいっるのっかな?」

今の時刻は5時過ぎ、この時間帯に2人は待ち合わせをしているらしいのでいるはずなのだが……

「ん~……?いた!いたいた!!」

いた、しかも2人そろって。
番外個体は目を輝かせて2人の元へ走っていく。

「ちょ~とそこのお二人さん♪」

元気よく声をかけると上条は「なんだ?」といった様子で、
美琴はあからさまに嫌そうに振り向いた。
どうやら美琴は上条との2人っきりの至福の時を邪魔されたと感じたようだ。
しかし振り返った時の様子は違っても番外個体を見た2人の反応は同じだった。

「「………え!?」」

目の前にいる少女の存在が信じられない、といったような反応だ。
すると美琴が声を荒げる。

「ちょ、アンタ何者!?まさか私の新しいクローン!?」

いきなりの正解、しかし番外個体は動揺しない。
こういうことくらいは予想していたし、完璧にだますため何度も練習してきた。

「やだな~違うって!ミサカはクローンなんかじゃないよ?」
「じゃ、じゃあお前何者なんだ!」

番外個体としては『まってました!』というような質問だった。

「ミサカ?ミサカはね~……未来から来た2人の娘だよ☆」
「「………は?」」

上条と美琴の反応を見て番外個体は快感を覚えた。

(~~~~~~!!うわっ!なんかめっちゃ気分いい!!騙すのって最高~♪)

気分がかなりよくなった番外個体はさらに饒舌に続ける。

「ミサカの名前は御坂麻琴、20年後の未来からきたんだ。」
「え、あ、そ、そんなわけない……だろ…?」

そんなわけない、口ではそうは言っても上条は心の底ではそう思っていなかった。
魔術、吸血鬼の存在、あのクローンの実験のこと、人の中身の入れ替わり、学園都市襲撃事件、イギリスでのクーデター、第3次世界大戦などなど……
それらの出来事、またそれに関わっている最中にどんでもないことを体験してきた上条にとって
未来から子どもが来ることは否定しきれなかった。

「いやいや~ミサカは正真正銘、2人の娘だから!証拠は…この外見でどう?」

そう言うと番外個体はくるりと回ってみせた。

「じゃ、じゃあ私……コイツと…結婚してるの…?」
「もちろん!まあお母さんが不幸にならないために、ってことで上条性じゃなくて御坂性だけどね。」

上条と美琴はまだ信じきれないというような表情をしていた。
そこで番外個体は1つ面白そうなことを思いついた。

「詳しいことは……また明日話すよ!今日はもう未来へ帰らないといけないからさ♪」

それは今日は本当のことを話さず1日じらすということ。
本当ならこの日話すつもりだったが2人は予想以上にうまくひっかかってくれた。
そのため急遽予定を変更することにした。

「じゃ、明日の5時にまたここに来るから!2人ともちゃんと来てよね!」

そして番外個体は黄泉川のマンションへ向かって走り出した。
上条と美琴は何か言おうとしていたようだがそこは華麗にスルーした。
これ以上何か話してボロを出さないためだ。

(あっは!これは明日が楽しみ楽しみ~☆)

番外個体は上機嫌で公園を出た。
だがこの嘘がのちに大変な出来事を引き起こすことになるとは思ってもいなかった。


◇ ◇ ◇


この少女はいったい何を言っている?

上条はわけのわからないまま御坂麻琴と名乗る少女の話を聞いていた。
自分と美琴の娘?
そんなことありえるわけがない。
しかしそう思おうとして過去の経験からありえないことはない、と思ってしまう。

ただただ膨大な疑問が生まれたが、その疑問を生んだ少女は詳しいことは何も言わずにどこかに去っていってしまった。

(ちょっと待て……俺と御坂の娘!?しかもアイツの話からすると俺が20歳の時の子どもなのか?いや落ち着け上条当麻、こんなことがありえるわけ……ない…?…ありえるんじゃないか?魔術だって存在したし……じゃ、じゃあ俺は御坂と付き合って結婚するのか!!?)

頭の中は完全にパニック状態。
落ち着け落ち着け、と上条は深呼吸をする。
しかしあまりの衝撃的な出来事になかなか落ち着きを取り戻すことができない。
そこで隣の美琴のことを思い出し落ち着くためにも声をかける。

「あ、あのだな御坂、その、えーとなんだ、子どものことなんだが―――――」

そこまで言った上条にかなり強い電撃がとんだ。
もちろん右手でかき消しはしたがあまりの強さに尻もちをついた。

「お、おい御坂何を……」

上条はびびりまくっていた。
今まで鉄橋で美琴を止めた時以外にこれほどの強い電撃を撃たれたことはないからだ。
当たれば死ぬのではないか、というほどの電撃だった。
そんな上条と目を合わせることもなく電撃を放った美琴は常盤台の寮の方向へ全速力で走って行った。

「え……御坂?」

上条は呆然と美琴が走っていった方向を見ていた。
空が暗くなってきた寒さが増してきた公園に上条は1人取り残された。


◇ ◇ ◇


「ヤバい……う、嬉しい……」

ここは常盤台の寮、美琴は自分の部屋のベッドに勢いよくダイブすると幸せそうな表情を見せている。
美琴としては今日も上条に勉強を教えるつもりだったのだが恥ずかしさのあまり電撃を撃って逃げて来てしまった。
2人きりになれる時間は今日はなくなってしまったが上条と結婚できることがわかったのだ。
これで嬉しくないはずがない。

「さ、さっきは恥ずかしさのあまり電撃撃っちゃったけどアイツなら大丈夫よね?それにしても子どもかぁ……」

麻琴の話だと18歳で妊娠することとなるようだが正直それは困る。
18歳ということは美琴はまだ高校生か大学生だ。
親にも学校にも迷惑をかけることになるし学園都市がどんな行動にでるかわからない。
しかし今子どもを生まなければ麻琴の存在はなかったことになってしまう。
18という年齢で子どもを産むのは少し早い気がするが自分は生まなければならない、なんとも複雑だ。

「でもできちゃうんだろうなぁ……あと……アイツはもう私のこと好き…なのかな……」

美琴としては今の上条の気持ちが気になってしょうがない。
ひょっとしてもう自分のことを好いてくれているのだろうか?
もし好いてくれているなら、それを考えると幸せな気持ちがあふれてくる。
しかし美琴には上条が自分のことを好いてくれているか、など確かめる勇気は到底ない。
だが明日麻琴と名乗る自分の未来の娘が何か行動を起こしてくれたなら、上条と付き合えるかもしれない。

「早く明日に……明日にならないかな……」

明日が楽しみで楽しみで仕方がない。
結局この日美琴は1睡もできなかった。


◇ ◇ ◇


翌日の放課後、美琴は大急ぎで学校を飛び出した。
理由はもちろん上条に会うため。
本当はメールか電話で会う約束をしようと思っていたのだが緊張してできなかった。

「いつもの公園にいれば会えるわよね……あれ?」

いつもの公園に向かって走っていたのだがその足が止まる。
上条がいた。
いつもはこの場所は通らないはずなのでなんで?と思ったがそんなことはどうでもいい。

「ちょっとアンタ、こんなとこで何やってんのよ!」

いつもより嬉しそうに声をかけた――――――――――のだが、

ビクッ!
と上条はいつもより驚いて振り返った。

「え……アンタどうしたの…?」

振り返った上条はいつもの上条ではなかった。
いつも自分を対等に見てくれる上条とは違う、何かに怯えているように見える。

「み、みさ、か……………ご、ごめん!!」

それだけ言うと美琴に背を向け全速力で走っていってしまった。

「ちょ、ちょっと!………行っちゃった……なんで…?」

あまりにわけがわからなかったので美琴は追うに追えなかった。
その場でなぜ上条は自分を避けるような行動をとったのだろうか、と少し考えた後答えは出た。

「あ……アイツ…私と結婚するの…嫌なんだ……」

最悪の結果。
上条は自分のことなど好いてはいなかった。むしろ一緒にはいたくない存在だった。

昨日突然現れた娘、その娘から聞いた未来の状況。
その状況から一緒にいれば確実に結婚するだろうことが容易に想像できる、つまり上条はそれを避けるために自分を避けたのだ。
遠ざけるのに謝ったのは彼の優しさからだろうか?

美琴は上条が走っていった方向を見つめながらその場に呆然と立ち尽くした。
まるで魂が抜けたように―――――


◇ ◇ ◇


「あれ~?おっかしいな~……」

この日も番外個体は上条と美琴に会うためあの公園にきていたのだが2人の姿が見当たらない。
昨日は『5時にここに来てくれ』と言ったが少し準備に手間取り15分ほど遅れてしまった。

「ひょっとして帰ちゃったのかな……ん?」

今日は諦めようかと思った時、探していた人が目に映った。
上条はいないようだが美琴がこちらに向かって歩いていた。
番外個体としては昨日あれから2人がどうなったか気になって仕方がない。

「いたいた~♪おーい!お母さ―――」

早く話したいと思い叫びながら美琴の側へ走っていったがその声は途中で途切れた。

「あ……麻琴……」
「ちょ、ちょっとどうしたの!?」

番外個体が驚くのも無理はない。
美琴からは全く生気が感じられなかった。

「何!?何があったの!?」
「……う、うぅ……アイツ、が……」
「アイツ?アイツって誰!?その人に何かされたの!?」

その言葉に対し美琴は小さく首を横に振り、ついにこらえきれなくなったのか涙が溢れ始めた。

「まこっ、と、わ、たし、もうっ、どうし、て、いいっ、か、わか、らな、い……」

それだけ言うと美琴は番外個体に抱きつき大声で泣き出した。
これで番外個体はさらに驚いた。
番外個体は今まで美琴とは会ったことはなかったが、ミサカネットワークを通じて美琴の性格などは完全に把握していた。
だから美琴が『妹達』の事件以外で泣くということはありえないという考えがあったからだ。

「ちょっと落ち着いて!ほ、ほらあそこにベンチで詳しく話聞くからさっ!」

番外個体は今にも倒れそうな美琴をベンチへ連れて行き座らせた。
その際美琴に肩を貸したのだが驚くほど脱力していることがわかった。
そしてベンチに座った美琴はうつむいて泣き続けた。
番外個体にはそんな美琴の背中をさすることくらいしかできなかった。

(なんでこんなことに……?まさかまた何か実験に巻き込まれたとか?)

美琴が落ち着くまでいろいろと考えはしたが結論はでなかった。
すると

「麻琴……ごめんね、ありがと……」

少し落ち着いたのか美琴は顔をあげこちらを向いていた。
しかしまだ元気はなく目は真っ赤だ。

「そ、それで何があったの?」

番外個体としてはなぜ美琴がこんな状態になってしまっているのか気になってしかたがなかった。

「あのね……アイツ、私のこと…嫌いだったみたい……」

その言葉を聞いて番外個体は『アイツ』が誰か理解し、
それと同時に美琴がなぜこんな状態に陥ってしまったのかも少しだが理解できた。

「さっきアイツに会ったんだ……でも…でもアイツは―――」

美琴は先ほど上条と会った時の出来事をすべて話した。
話している最中美琴は必死で涙をこらえていた。

「未来から来た麻琴ならわかるでしょ?私がどれだけアイツの事が好きか……」
「え、あ、まぁ……」
「アイツは私にとって欠けちゃダメな絶対的存在だった。ロシアから帰ってきたときアイツの存在のありがたみがわかって結構積極的にアタックしてたんだけど……無駄だったみたいね……」

番外個体はミサカネットワークにより美琴が上条のことを好きだということは知っていた。
だからこそ2人の子どもという嘘をついたのだ。
しかし、ここまでとは思いもしなかった。
美琴の上条への想いはもっと軽いものだと思っていたのだ。
だがそれは違った。美琴にとって上条はすべてであり、唯一絶対の存在だった。
美琴の想いをすべて理解した番外個体はとんでもないことになってしまった、と焦りを隠せなかった。
だがそんな番外個体の様子に美琴は気づかない。そしてふいに美琴はこう言い出した。

「ねぇ……パラレルワールドって…知ってる?」

パラレルワールド、つまり今いる世界とは別に存在する平行世界のことである。

「え、まあ、知ってるけど……」
「じゃあ話しは早いわね…きっと麻琴はパラレルワールド、つまり私たちとは別次元の未来から来たのよ。」

ここまで聞いて美琴が何を言いたいかわかった。

「だから私とアイツが麻琴の話す関係にならなくても麻琴は消えたりしないはずよ……でも……」

美琴はそこで一旦言葉を切った。
そしてここまで必死にこらえていた涙が再び溢れだした。

「私も……私も麻琴の世界の私みたいに、アイツと一緒に幸せになりたかったなぁ……」

そして美琴はまた顔を下に向け声を押し殺すように泣き始めた。
その様子に番外個体はもういても立ってもいられなり自分が未来から来た子どもではないと言おうとした。
―――が、番外個体は開きかけた口を閉じた。
本当のことを言ってどうなる?
本当のことを言えば上条が美琴を避けている、という状況だけが残りなんの解決にもならない。
ならば―――

「……大丈夫だよ、絶対幸せになれるから。」
「…………え?」

美琴は涙を流したまま顔を上げ、番外個体が立っているほうを見た。

「パラレルワールドなんかじゃない、ミサカはこの世界の未来からきた子どもなんだから安心してよ!」

番外個体は嘘を重ねた。
だが悪意のある嘘ではない。
少しでも美琴を安心させたい、という思いからついた嘘だった。

「だからちょっとここで待っててくれないかな?ミサカが…ミサカが絶対なんとかするから!」

それだけ言い残し番外個体は上条の元へ走り出した。
上条がどこにいるかはわからない、だがそれでも今の美琴を見ると何か行動に移さずにはいられなかった。


◇ ◇ ◇


上条当麻は怯えていた。
御坂美琴に忌み嫌われることに―――――

学園都市に帰ってきてからのこの1ヶ月あまりは楽しかった。
またみんなと学校生活が送れるようになったし事件も何も起こらない。
補習や寮に帰ってきた後にする膨大な課題は大変だったが、補習はクラスメイトに、課題は美琴に教えてもらいながらだったので楽しくできた。
それに美琴は毎日付きっきりでとても丁寧に教えてくれいるのでとても助かっている。
そしてインデックスは小萌先生のところに預かってもらっているため、毎日上条の部屋で2人きりだ。
さらに夕飯までも作ってくれたりもしてくれていた。

上条はそんな美琴に恋愛感情を抱くようになった、とまではいかないが美琴を親友かそれ以上の存在だと思っていた。

だが昨日の出来事ですべてが変わった。
美琴は自分となど一緒にいたくないのだ。
今まで勉強を教えてくれていたのは『妹達』の事件での借りを返すためであってそれ以上は何も思っていなかった。

だから昨日あれほど強い電撃を撃ってきたのだろう。
自分との子どもができる、将来的には結婚する、それを嫌がって消し去りたいと思ったのかもしれない。
それが上条にとってこの上なく恐ろしかった。

そして放課後、上条はいつもと違う道から帰ることにした。

「とにかく……今日は御坂とは会わねぇようにしねぇと……」

まだ気持ちの整理ができてないため今日だけは絶対に会いたくない。
その思いからいつもとは別の道を選んだのだが―――

「ちょっとアンタ、こんなとこで何してんのよ!!」

今1番会いたくない相手に見つかってしまった。
まさかこの道で会うことになるとは思ってもいなかったので上条は思いっきり驚いた。

美琴は今からどんな行動にでるだろうか。
電撃を撃ってくるか、いや電撃ならまだいいほうだ。
もし忌み嫌っていることを言葉にされたら?
消えろ、などと言われたら?

上条は少し治まっていた『怯え』が全身に広がるのがわかった。
美琴など直視できない。
ただ絞り出すように

「み、みさ、か………ご、ごめん!!」

と、だけ言って走りだす。後ろなど振り向かずただただ全力で走る。
もし追ってこられていたら?と考えたため全くスピードを緩めずに、目的地など決めずに、とにかく体力がなくなるまで走り続けた。

どこまで走ったかわからないが体力も尽き、上条はいつもと違う公園で足を止め中央にあった噴水の淵に手をついた。

「はっ……はっ……クソッ!!俺は……怖い…のか?」

ふと下に目をやると水面には自分の姿がはっきりと映っていた。
その表情は怯えきり、憔悴しているようにも見える。

「なんて表情してんだ……これでどうやって御坂に会えばいいってんだよ……」

もう美琴とは会わない、などと考えはしたがそうはいかない。
未来から子どもが来ているのだ、もし会わなければ未来は変わってしまう。
しかしどうやって美琴に接していけばいいのだろうか。
その答えは、どうやってもでてこない――――――――――


◇ ◇ ◇


「ダメだ…どこにもいない……」

ここは上条の寮の前、もう完全に日は暮れすっかり暗くなってしまってる。
美琴と別れてからすでにかなりの時間が経過、その間いろんな場所を走り回ったがまだ上条を見つけることはできていない。
『ミサカネットワーク』により上条の部屋を知っていたため寮に来ることはできたが、まだ帰ってきていなかったため途方に暮れていた。

「お姉様にはああ言ったけど……どうしよう……」

番外個体は上条をなかなか見つけられないことにいらだり、焦りがピークに達しようしていた。
一体上条はどこへ行ったのだろうか。
美琴を嫌って避けているのであれば絶対に会わないようにするため友人の家にでも行っているかもしれない。
もしそうなったら今日は上条に会うことはほぼ不可能だ。

「くそっ!ミサカがあんな嘘ついたせいで……」

いらだちのあまり自分を責める。
自分が2人の子どもだという嘘さえつかなければ美琴はあんなに苦しむことはなかった。
その思いから罪悪感でいっぱいになる。

それに上条と会ったとしても、もし上条がはっきりと美琴のことを嫌っているなどと言ったら?
そうなった場合最早どうしようもなくなる。
どうする?どうすればいい?
番外個体は今までにないほど脳をフル回転させ対策を考えようとした。
何かないか、この状況を解決する方法は―――――

「み、御坂……」

と、そこに聞いたことのある声が聞こえてきた。
その声のする方向をむくと、いた。
上条だ。
暗くてはっきりとは見えないが上条であることは間違いない。
だが向こうは暗くて見えないためか自分のことを美琴だと勘違いしているようだ。

「あ、あのさ…」

番外個体は自分が美琴ではないことを告げようとすると

「ま、待て御坂!お前の言いたいことはわかってる!俺のことを嫌いだって言いたいんだろ!?」

などとわけのわからないことを言い出した。
それも早口で話しているしなぜか右手を前に出している。

「俺はお前に嫌われたって別にいい!けど麻琴のこともあるし1回でいいから話しを「ちょっと!!」…」

依然早口で話し続けている上条の言葉を番外個体が遮った。

「ちょっと……勘違いしてない?」
「え……あ…麻琴か……」

ようやく上条は目の前にいる少女は美琴ではないと気づいたようだ。
上条はほっと一息ついてから近づいてきた。
近づいてきてわかったのだが上条の顔色はあまりよくない。

「麻琴、それで…なんでここに…?」
「なんでって……お母さんのことなんだけど。」

番外個体は上条に対してもまだ本当のことを言わないと決めていた。
言わないほうが美琴について聞くのに都合がいいからだ。

「な、なんだ?」
「その前に、さっき言ってた“俺のことが嫌いなんだろ?”ってどういうこと?」

番外個体は当初ストレートに美琴をどう思っているのかを聞くつもりだった。
しかし先ほど上条が言ったことがどうも府に落ちないのでそちらから尋ねることにした。

「いや……そのままの意味だよ。御坂には……嫌われてるからな……」
「はぁ!?」

番外個体は驚いた。
美琴に嫌われている?
上条が美琴を嫌っているのではなかったのか?

「はぁ!?って……まあ未来から来たお前が驚くのも無理ないか……」
「い、いやそういうわけじゃ……なんで嫌われてると思ってるの?」
「そりゃ嫌いじゃなかったらあんな強い電撃撃ってこないだろ……」

電撃、確かに美琴がさっき説明したとき上条に電撃を撃ったと言っていた。
ならば上条も美琴もただの勘違い……?
そこで番外個体は上条に確認をとる。

「あの……お母さんのこと嫌いじゃなかったの……?」
「俺が御坂のことを……?何言ってんだよ、そんなわけないだろ?毎日勉強教えてもらってありがたいと思ってるのに……それに俺はむしろ御坂のことを―――」

上条はそこまで言って言葉を切った。
番外個体には上条がなぜそこで話すことを止めたのかわからなかった。
上条は何かに気づいた、という表情をしているように見える。

「?何?どうしたの?」
「いや……なんでもない……」

上条は寂しそうにそう答えた。
結局上条が何を言おうとしたのかはわからなかったが番外個体には1つわかったことがある。

それは上条は美琴のことを嫌ってなどいない、ということ。
それがわかっただけで心底安心した。
もし上条が美琴のことを嫌っているのであったなら対策のとりようがなかった。
だが嫌っていないというなら誤解を解くだけだ。

ここで番外個体は考える。

どうやって2人の誤解を解くか。
上条を美琴の元へ連れていくのが1番てっとり早いのだがどうやって連れていくべきか。
自分が2人の娘ではないと話してからでもいいがそれだと説明に時間がかかる。
今は一刻でも早く美琴の元へ戻りたい。
ならば―――

「まあ安心してくれ麻琴、御坂とはいずれなんとか話をつけるからさ。じゃ、もう遅いから上条さんは―――」

そう言って寮へと入って行こうとした上条を番外個体は腕を掴んで引き止めた。

「お、おい麻琴?何を……」
「今ね、お母さんがすっごいピンチなんだ、だからミサカはここへ来たんだよ。」
「!!?」

番外個体はまた嘘をついた。だがこれも決して悪意のある嘘ではない。2人を救うための嘘だ。
それにこうでも言わないと上条を公園へ連れていけないと考えたからだ。
驚きを隠せていない上条に対し、さらに番外個体は続ける。

「今公園でお母さんはすごく苦しんでる。もちろん病気とかじゃないよ?」
「それほんとか!?御坂に何があった!?」
「……それは…お父さんに嫌われてると勘違いしてるんだ。」
「え……?」

そして番外個体は上条に説明する。
美琴がなぜ上条に電撃を放ったのか、今どのような状態になっているかなどだ。
ただ美琴が上条に好意を抱いているということは話さなかった。

「それは……本当のことなのか…?本当に御坂は俺のことを嫌って…ないのか?」
「本当だって!!とにかく急がないと!お母さんを救えるのはお父さんしかいないんだから!」

番外個体の真剣な表情に上条は即座に決断する。

「よし麻琴……公園まで走るぞ!!」
「うん!」

こうして2人は全速力で公園へと向かった。
かなりハイペースで走ったため思いのほか早く到着できた。
だが―――

「あ、あれ?いない?なんで?」

美琴が待っているはずのベンチに美琴の姿はなかった。

「お、おい!ここに御坂がいるんじゃなかったのか!?」
「ちょ、ちょっと待ってってば!とりあえず探さないと!ミサカはこっちを探すからさ!」

まさかいなくなっているとは思ってもいなかったため2人はパニックに陥る。
そして焦りながらも二手に別れて公園内に美琴の姿がないか探し始めた。


◇ ◇ ◇


「どこにもいねぇ……御坂のやつどこ行ったんだよ……」

上条は真っ暗になった公園で美琴を探し続けていた。
数分間探したがどこにも美琴らしき姿は見当たらないし暗くて近くしか見えない。
他に誰か人がいれば美琴らしい人を見なかったか、尋ねようと思ったが人すら見当たらない。
とりあえずさっきのベンチに1度戻ろうとすると

「アンタ……なんで…ここにいるの……?」
「!!?」

美琴がいた。
どうやら飲み物を買いに行っていたらしく手には缶ジュースが握られている。
見つけることができた、ほっと一安心したがそれがいけなかった。
緊張していた気持ちが解けてしまった。
そのため治まっていた『怯え』がまた上条の中に姿を現した。

「なんでって……麻琴に呼ばれて…お、お前のことが心配になってきたんだよ……」

『怯え』のため声が震える。
本当に嫌われていないのだろうか、昨日と今日のことを思い出すと正直のところ番外個体の言ったことは完全には信じられなかった。
今すぐにでも拒絶の言葉を浴びせられるかもしれないと思うと足がすくむ。

「あ、の御坂、それで…大丈夫……なのか?」
「………大丈夫よ。」

それを聞き上条はほっと胸を撫で下ろした。
『怯え』も少し治まった。
だが―――

「あのね、アンタに言いたいことがあるの。」

言いたいこと、その言葉に上条の鼓動は一気に加速するし今までで1番大きな『怯え』が心を蝕んだ。

「い、言いたい……こと…って…なんだ…?」

聞きたくない、しかしその意思に反して逆に聞いてしまう。
頼む、今だけは不幸よ起こらないでくれ、上条は心の底からそう願った、
しかし―――

「うん、私ね、もうアンタと会わないようにしようと思うの。」
「え―――――」

恐れていたことが起こった。
美琴からの拒絶。
やはり美琴には嫌われていた。
すべてわかり目の前が真っ暗になった。
美琴が何か言っているようだが全く耳に入らない。
そして美琴は上条に背を向け立ち去っていく―――――

とある少女の悪巧み―シリアスver― 2



◇ ◇ ◇

美琴は暗くなった空の下、公園のベンチでずっと待っていた。
日が落ちたためかなり寒い、だが麻琴の言ったあの1言が美琴をこの場に留めさせていた。

「幸せになれる、か……」

今や麻琴の存在だけが美琴を支えていた。
麻琴がこの世界の未来からきたというならば、自分は上条と一緒にいられる。
パラレルワールドのことを考え1度は麻琴の存在も揺らいだ、しかし今は信じてただただ麻琴の言うことが本当であってくれと祈っていた。

「にしても麻琴遅いな……飲み物でも買ってこよ。」

そしてあの自販機でヤシの実サイダーを買い、ベンチに戻ろうとした時、

「アンタ……なんで…ここにいるの…?」

上条とはち会わせた。
驚いたが麻琴が連れてきたんだろうと理解した。
そして美琴は少し期待していた。
ひょっとして上条はこれからも自分と一緒にいてくれるのではないかと。
だがその想いはもろくも崩れた。

「なんでって……麻琴に呼ばれて…お、お前のことが心配になってきたんだよ……」

ああやっぱりそうか、と美琴は思った。
上条の言葉と態度でわかった、やっぱり上条は自分のことを避けたがっている、と。
上条の声は震えており今までの態度とは違った。
目を会わせてくれないし一定の距離をとろうとしている。
やはり前の関係には戻れないのだ。
それは美琴にとってとても悲しいことだった。

上条に大丈夫か?と聞かれたので大丈夫と答えたが内心はボロボロだった。
そして美琴は1つの決断を下す。

「あのね、アンタに言いたいことがあるの。」

それは美琴にとって、とてもとても大きな決断だった。

「い、言いたい……こと…?」
「うん、私ね、もうアンタと会わないようにしようと思うの。」

本当はこんなこと言いたくなかった。
しかしどうせもう元の関係には戻れないし上条は自分を避けようとする。
ならば、いっそのこと自分から遠ざけようと考えたのだ。

「アンタも私に会いたくないんでしょ?なら丁度いいじゃない、私としてもアンタに迷惑かけたくないしね。」

この言葉に対し上条は何も言わない。
ただこちらを見続けているだけだ。

「そうだ、もう1つ言いたいことがあったわ……」

美琴は泣きたかったが我慢した、これ以上上条に罪悪感を感じさせないために。

「今まで、ありがと……さよなら……」

そして上条に背を向ける。
それと同時に目から大粒の涙が溢れかける。
だがまだ泣けない、せめてこの公園を出るまでは我慢しなければ。
そのまま公園を立ち去ろうとする。と―――

「いたっ!!やっと見つけたよ。」

息を切らした麻琴が現れた。
麻琴を見た美琴の足は止まった。


◇ ◇ ◇


番外個体は上条と美琴の様子がおかしいことに気づいた。
だがそれより2人の誤解を解きたかった。

「2人とも、少し……いや、たくさん話したいことがあるんだけど、いいかな?」

番外個体は上条と美琴にそう尋ねた。
しかし2人は全く返事をしない。

「ちょっと聞いてる!?話を聞いてほしいんだけど?」

そう言って美琴の腕をひっぱった。

「あ……うん……ごめんちょっとぼーっとしてた…」

美琴は素直に従った。
しかし上条は何も見えず、何も聞こえず、意識がないようにも見えた。

「………えい。」
「!!?」

あまりに上条が無反応なので番外個体は微量の電気を上条に流した。

「ねぇ……ちょっと聞いてくれる?」
「お、おう……」

上条は急な衝撃に驚いた様子だったが無意識状態は治った。
これで話を聞いてもらえる状況は調った。

「それで話って…なんなの?」
「あ、うん、今全部話すから。」

そして番外個体は1度深呼吸をした。
嘘をついてこんな状況を作り上げてしまったことに上条と美琴は怒るだろう。
それにこれから2人はまともに接しようとしてくれないかもしれない。
だがそれでも自分で蒔いた種だ。
意を決して話しだす。

「じゃあまずは……2人とも…ごめんさない!!」

番外個体は頭を下げ上条と美琴に謝った。

「え?な、何がだ?」

謝られたことに上条は全く理由がわからなかったし美琴は上条との関係が悪化してしまったことに対しての謝罪だと思った。
だがもちろん番外個体はそんな意味で謝ったのではない。

「あの、冷静になって聞いてね。実はミサカは―――」

番外個体の言葉の後、真っ暗な夜の静かな公園はより一層静まり還った。
世界中の時が止まっているような感覚にみまわれる。
それほど公園は静かだった。
そんな静寂の中、美琴はゆっくり口を開く。

「今……なんて言ったの…?」

美琴はそうは言ったものの本当は聞こえていた。
だが番外個体の言ったことはとてもではないが信じられないかった。

「もう1度言うよ、ミサカは未来から来た2人の子どもじゃないんだ。本当はお姉様のクローンなんだよ。」

クローン、その単語に上条は食いつく。

「ク、クローンって……また何か実験が行われてたってことか!?」
「それはないから安心してよ、ミサカのことは後でちゃんと説明するから。」

上条は怪しんでいたがとりあえず番外個体の言うことを信じた。

「じゃ、じゃあ……あの話はすべて…嘘?」
「うん…嘘ついて本当にごめんなさい!」

2人は混乱していた。
何がどうなっているのか。つまり、あれが嘘で、何が、本当?

そして上条がようやく理解したことは麻琴は未来から来た自分たちの子どもではないということだた。
だが美琴の気持ちについてよくわからなかった。
さっき寮の前で番外個体が言ったことが本当なのか。
美琴が言った“会わない”ということが本心なのか。
そこでおそるおそる美琴を見てみると―――

「な!?おい御坂!」

美琴は泣いていた。
目から大粒の涙がとどまることなく、そしてそれを隠すことなく泣いていたのだ。

美琴としては麻琴の存在は最後の希望だった。
麻琴が上条と自分の子どもなら、まだ上条とうまくいく可能性はある。
パラレルワールドの話しをしたときも、つい先ほど上条に会わないと告げた時も、
心の底ではこれから麻琴の言う通りに上条と恋人の関係になれるのではないかと淡い希望を持っていた。
だから先ほど番外個体が話をしたいと言ったときも素直に従ったのだ。

だがその最後の希望も完全に失われてしまった。
麻琴が自分たちの娘ではないとわかった時、美琴の中で何かが崩壊した。
番外個体が『クローン』と言ったことも耳に入らない。
ただ泣くことしかできなかった。

「御坂!!」
「お姉様!」

そんな美琴を見て上条と番外個体は美琴の元へ駆け寄った。
だが側までは近づけない。
美琴の顔は真っ青になり、全身は震え、かなりの電気が漏れだしてきていた。
上条には『幻想殺し』があるが電気は拡散しているため近づけば上条でも黒こげになってしまうだろう。

美琴の状態はおかしさは尋常ではない。
完全に能力のコントロールが失われていた。
上条も番外個体も美琴がなぜこんな状態になってしまったのか全くわからなかった、
が、番外個体には美琴のこの状態を抑える方法があった。

「お姉様聞いて!!」

この声が今の美琴に聞こえているかはわからない。
漏れだす電気は徐々に増え、広範囲に広がっているため上条も近づけない。
だが、それでも番外個体は美琴へ話しかけることを止めなかった。

「お姉様は、嫌われてなんかない!」

公園内に番外個体の声が響き渡った。
そしてそれと同時に美琴から漏れだしていた電気が弱くなった。
声が届いた、そうわかった番外個体は間髪入れずに

「上条当麻はお姉様を嫌ってなんかない。」

と、美琴に告げた。
それが聞こえたのか美琴から漏れだしていた電気はほとんど止まり、少しだが生気が戻ったような気がした。

「……それ……本当…?」

美琴はうつむきながらぽつりとつぶやいた。
それはとても小さく、消えてしまいそうな声だった。
だが上条と番外個体にはしっかりと聞こえていた。

「ほんとだよ。ね?」
「ああ!本当だ、御坂、嘘なんかじゃねぇ!嫌ってるどころか最近俺は御坂と一緒にいることが楽しいんだ。」

上条の言葉を聞いた美琴はゆっくりと顔を上げた。
目には光が戻ってきている。

「じゃ、じゃあなんで…あの時私から逃げたの……?」

あの時、というのは今日の昼の出来事のことだ。
少しの静寂の後、上条は口を開く。

「それは……御坂に嫌われてると思って……それで、その、怖くなって逃げたんだ。」
「だからさ、簡単に説明するとお姉様も上条当麻も、2人ともが嫌われてるって勘違いしてたんだよ。」

番外個体が付け加えて説明した。
そして美琴の震えが止まった。

「勘違い……?じゃあアンタは…私のこと嫌いじゃないの……?」
「ああもちろんだとも!何度でも言うけど嫌ってなんかねぇよ。」

それを聞いた美琴に完全に生気が戻った。
もう顔色も悪くないし電気も漏れていない。

「よかった……ほんとによかった……」
「そうだ……あの、俺も聞きたいけど御坂は俺のこと…嫌ってないよな?」
「当たり前じゃない!嫌ってなんかないわよ!私はむしろアンタのことが―――――」

美琴はそこまで言うと急に顔を真っ赤にして再びうつむいた。

「??どうした御坂?今何が言いたかったんだ?」

鈍感な上条は美琴が何を言おうとしたのかわからなかった。
だが番外個体は違った。

(今……お姉様絶対好きって言おうとした…よね……そういえば上条当麻もさっき同じようなことを……まさか!?)

1人考え込んでいる番外個体の前では美琴がテンパっていた。

「な、なんでもない!そ、そうだ!昨日も今日も電撃放ってごめん!!」

美琴は照れ隠しに急に話題を変えた。
明らかに不自然だったが上条は気にしない。

「ああ、別に気にすんなよ。ちょっとびっくりしたけどな。」
「ほ、ほんとにごめん……思えば私の電撃で勘違いが始まったんだもんね……」

自分から話題を変えたのになんだか落ち込んでしまう。
そんな美琴に上条は優しく受け答えをする。

「だから気にすんなって。俺もお前から逃げちまったしおあいこ様だよ。」
「う、うん……あの、さっきは会わないなんて言っちゃったけど…これからも今までの関係で……いてくれる?」
「ああ、もちろんだとも。そんなこと聞くまでもないさ。」

また上条と一緒にいられる、美琴の凍っていた心は完全に溶かされた。
すると番外個体が美琴の腕を引っ張った。

「ちょっとお姉様!」
「え、な、何よ。」

番外個体は上条に聞こえないように美琴と話す。

「お姉様は今のままでいいの?」
「へ?ど、どういうことよ?」
「だから上条当麻との関係が今のままでいいのかって言ってるの!」
「―――――――!?そ、そりゃ……やだけどさ……今はこのままでも―――――」
「じゃあ今告白しよ!告白!!」

そう言う番外個体の目は輝いていた。
美琴の言うことなど聞いてはいない。
番外個体には上条が美琴を好きだという確信がある。
だからうまく2人を付き合わせれば少しは今回の騒動の償いにもなるし面白いものも見られる。
その思いから数分間、必死に美琴を説得した。

「ほ、ほんとなの?本当の本当?」
「ほんとだって!ミサカを信用してよ!」

かなり悩んだが美琴は先ほどとは違う大きな決断をした。
そして美琴はありったけの勇気を絞り出した。

「あ、あのさ―――――」


◇ ◇ ◇


美琴が決死の告白を実行してから数分後。
美琴と番外個体はベンチに腰掛けていた。

結論から言おう、美琴の告白は失敗に終わっていた。
美琴は放心状態で番外個体がいくら声をかけても何の反応も見せなかった。

すると“長いこと寒空の下にいて冷えちまっただろ?”と言って暖かい飲み物を買いに行っていた上条が戻ってきた。

「コーヒー買ってきたぞ!えーと……番外個体だっけ?ほら。」
「ああ、ありがと……」

番外個体はコーヒーを受け取り美琴が座っている左側を見る。

「……ほら御坂、コーヒー…飲むだろ?」

上条がなんとも気まずそうにコーヒーを渡そうとしていた。
そんな上条に対し美琴は無言で受け取った。
ぎくしゃくした様子の2人を見た番外個体は耐えきれなくなった。

「……あのさ…1つ言ってもいいかな?」
「……なんだ?」

番外個体は美琴、上条、そして手に持っているコーヒーの順番に視線を移してからため息をつく。

「……2人とも……せっかく付き合うことになったんだからもっと何か話したら?」
「う……話したらって言われても……なんか、その、話しづらくて……なぁ?」
「ぅん……」

訂正しよう、上条は気まずそうにコーヒーを渡していたのではない。
恥ずかしかっただけだ。
そして恥ずかしかったのは美琴も同じ、だから無言で受け取ったのだ。
放心状態だったのは上条と付き合えたことが信じられない、ということだった。

前途多難だね、と番外個体はため息まじりにつぶやいた。

そしてなぜ美琴の告白が失敗に終わったのに2人が付き合うことになったのか、ということだが理由は簡単。

「でもびっくりしたわよ、まさかアンタのほうから告白してくれるなんて……」

美琴の言葉通り上条が告白したのだ。
つまり美琴の告白は失敗したが上条の告白が成功したというわけだ。
美琴は告白を決断したにもかかわらず、なかなか言い出せなかった。
しかしそれを見た上条は奇跡的に美琴の言いたいことを察した。
否、奇跡ではないのかもしれない。

「そりゃ……番外個体のおかげだよ。」
「へ?」
「今回のことで俺にとってどれだけ御坂が大切な存在かわかったからな、それもこれも番外個体の作り話のおかげさ。ありがとな。」

予想外だった。
まさかお礼を言われるなんて思ってもいなかった。
責められて当然、いつ責められるかとさえ考えていたところへのお礼。
番外個体はなんだかむずかゆくなり先ほどの美琴と同じように強引に話題を変えた。

「あ、いや、そ、それにしてもお姉様……以外とヘタレだったね…あれだけミサカが後押ししてあげたのに……」
「い、いやあれは……もう少ししたら言うつもりだったのよ…」

番外個体は目をそらし苦笑いするしかなかった。

(……本当にミサカはこのお姉様のクローンなのかな?)

それから3人はコーヒーを飲み終わるまでの数分間、今回の騒動や番外個体についてなどいろいろ話しをしていた。

「あー……もうこんな時間か……もっといろいろ聞きたいんだけど…今日はもう遅いしまた明日会えるか?」
「あ、うん。ミサカもそのほうがいいかな。」

現在の時刻は8時前、当然完全下校時刻は過ぎているし番外個体もそろそろ帰らないと黄泉川が心配しだす時間帯だ。
それに12月のこの時間帯はかなり寒かった。

「……なあ御坂、寒くないか?」
「そりゃ……寒いけど?」
「じゃあ俺の上着貸してやるよ。」

そう言って上条は上着を脱ごうとした。

「へ?い、いいいいいやいいわよそんなの!アンタが寒くなるでしょ!」

美琴は顔を少し紅くしながらそう言った。
ちょっとした上条の気遣いがとても嬉しく、それだけで全身が暖かくなったように感じる。
と、急に上条は美琴に顔を近づけた。

「ぅえ!?な、何よアンタ!」
「いや…顔赤いみたいだけど大丈夫か?」

暗くて見えづらいため上条はさらに美琴に顔を近づけた。
それを見た番外個体は何か面白いことを思いついたかのか、ニヤリと笑って上条に背を軽く押した。

「「―――――!?」」

番外個体に押された上条はどうすることもできずそのまま前によろけた。
そして前にあるのは美琴の顔。
つまり―――

「それは今回の騒動のお詫びだよん♪じゃ、また明日ねお二人さん!初キスおめでと☆」

それだけ言って番外個体は黄泉川のマンションへと帰っていった。

「な、な……やられた……」

上条はこれ以上ないというほど顔を真っ赤にして番外個体が走り去って行った方向を見ていた。
唇にはまだ柔らかい感触が残っている。
そこではっと気づく。
今美琴はどんな反応をしている?
付き合うことになったのだからキスをして怒っている、ということはないだろう。
しかしもし機嫌が悪くなっていたら?
ゆっくり後ろを振り返ってみると……

「………お前…すっごい嬉しそうな顔してるな…」

美琴は顔を赤くしながらも最高に幸せそうだ。
それを上条に指摘され慌てて顔を下に向ける。

「しょ、しょうがないじゃない!だって……嬉しいんだもん……」
「……なら…もう一回するか?その…俺としては…ちゃんとしたいし……」
「!?」

美琴は素早く顔を上げた。
少し驚いた様子だったが何も言わずにそのまま目を閉じた。

「う……」

自分からすると言ったのだがやはり恥ずかしい。
数秒戸惑ったあとようやく行動に移す。
美琴に近づき肩に手をおいた。

「その…じゃ、じゃあ…ん―――」

本日2度目のキス、今度は上条の意思でのことだ。
数秒後、恥ずかしそうながらもとても幸せそうな2人の姿があった。
すると急に美琴が

「あ、あのさっ!さっきの……訂正していい…?」

と、言い出した。
“さっきの”と言われても上条にはそれが何を指しているのかはわからない。
だがそこまで言われて断るわけにもいかないので承諾する。
美琴は上条と目を合わせ恥ずかしそうに

「えと……今までありがと…そして…これからもよろしくね。」

そう言った。
上条には何を訂正したのかわからなかった。
しかし今の言葉が悪い意味でないことはわかる。

「ああ……よろしくな、美琴。」

そして2人は少し言葉を交わすと美琴は上条の右腕に抱きつき、仲睦まじく上条の寮の方向へと歩いていった。
そして公園には誰もいなくなった――――――ように思えたが

「にゃはっは~いいもん撮っちゃった♪」

その声とともに番外個体が姿を見せた。
実は帰るふりをして物陰に隠れていたのだ。
そして右手にあるのはカメラ、もちろん学園都市製のもので暗闇でも、どんな距離でもはっきり写るすぐれものだ。
このカメラを用意していたため5時に公園に来られなかったのだ。
さらにこのタイプはすぐに写真が出てくるタイプ。
番外個体の左手には2人がキスしている写真と仲良く寮へ向かって行く写真があった。

「抱き合ってる写真でも撮れるかと思ったけど予想外に面白い物が……これは明日が楽しみ楽しみ♪
 今度は今日みたいなことがないようにしないとね☆」

今回は予想以上の騒動になったがそれでも悪巧みは止められない。
どうやらとある少女の悪巧みは明日も続くようだ―――


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