とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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うちあけ花火



「あ……あの……み、みみみ、御坂さん? ……で、よろしいのでせうか?」

 しどろもどろになりながら、目の前にいる少女に声をかける上条当麻。
 目の前にいる少女は、御坂美琴のはずなのだが……。
 それは、上条当麻にしてみれば、初めて見る姿だった。
 待ち合わせをした場所に現れた美琴はいつもの常盤台の制服ではなかった。

 うっすらとした桜色の生地に、淡い色の朝顔の花が咲き誇る柄の浴衣を着ていたのだ。
 決して派手ではなく、また可愛らしいという雰囲気でもなく、どちらかと言うとシックで落ち着いた感じの浴衣だった。
 だがそれが、逆に美琴を大人びた雰囲気にさせ、常盤台の制服の時には感じられなかった女性の色気を感じさせる。

 髪飾りもいつものより少し大きめの花をあしらっていて、それが簪っぽい雰囲気になっている。
 それがまた、美琴のショートカットとのマッチングが非常に良く、いつもより落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
 これで、手に持っている巾着袋が『ゲコ太』でなければ……。

(絶対に、御坂だと気付かなかったよな。それにしても御坂だと気付かなければ間違いなくやられてたぞ……。イヤ、今もう既にやられかけてるな……)

 何にどう『やられてた』のかは定かではないが、上条は間違いなくそう思った。

 今夜は学園都市の花火大会。
 夏休みに補習を受けずに済むようにと、休み前に出された課題を美琴の協力の下、提出期限ギリギリだったとは言え全て片付けることが出来た。
 その流れのまま、夏休みの宿題や課題も同じように美琴の協力で、あっという間に片付いてしまったのだ。
 こんなコトは学生生活の中で初めてのことである。

 そこで上条は、そのお礼も兼ねて今日開催される『学園都市』主催の花火大会を美琴と一緒に見に行く約束をしたのである。

 いつもの待ち合わせ場所に現れた美琴を見た時、上条は最初それが美琴だとは気付かなかった。
 普段なら、美琴が思わず電撃の槍を飛ばしているシチュエーションなのだが、今日はシックな浴衣を着ていて気分が違ったのか。
 頬をうっすらと染め、キョロキョロと美琴を探している上条のTシャツの裾を『クイクイ』っと引っぱるという、非常にカワイらしいアプローチをしたのである。

「ま、……待った?」
「へ? ……え? あ……あの……」
「えっと……その、……あの……に、似合わない……かな?」
「あ……あの……み、みみみ、御坂さん? ……で、よろしいのでせうか?」
「う……うん……」
「(ズッキューーーーーーーーーーンッ!!!!!)」

 いつもなら間違いなく、電撃の槍か超電磁砲(レールガン)が飛んできているトコロだ。
 だが、今日はそんな物騒なモノは一切飛んでこなかった。

『う……うん……』

 と返事をする美琴を見た瞬間上条は、一年前の夏休み。まだ記憶を失う前にあの鉄橋の上で、美琴全力の『雷』を墜とされた時以上の衝撃を感じた。
 当然覚えている訳はないのだが……。
 今この瞬間に受けた衝撃は、これまでに美琴から受けたどの攻撃をも遙かに凌駕する何かだった。
 そして、自分の中にあるはずの『鉄壁』を誇ると自負する理性の壁が、『ガラガラ』と音を立てて崩れ去っていくのを上条は感じていた。
 物騒なモノが何一つ飛んでこなかったにも関わらず、上条は今まで自分の中にあった何かが崩れ去っていくのを認めるしかなかった。

 そして思わず……

「御坂……。スゲえ、綺麗だ……。もの凄く似合ってるし、素敵だぞ……」

 と言ってしまった。
 頭で考えた訳ではない。
 どちらかと言えば、良くない頭なのだから見て感じたままを言った。と言った方がイイだろう。
 だが、今度はそれが美琴にとっては、幻想殺し(イマジンブレーカー)以上の効果を与えることになった。

「(こ、コイツ……い、今なんて言ったの? き、き、き、綺麗? ににににに似合ってる!? すすすすすすす素敵ィ!?!?!?!?(////////////////////))」

 いつもならこんな台詞を言われたら、美琴はテンパって、ふにゃー化して、漏電して気絶というコースになるのだが……。
 上条のTシャツの裾を掴んでいたお陰もあってか、目の前にあった上条の右腕に『ギュッ』と抱き付いてしまった。
 そのお陰で、テンパってふにゃー化はしたモノの、微かに触れていた右手のお陰で漏電して気絶コースまでは何とか回避できた。

 美琴は上条の攻撃を何とかクリアした。
 ところが、今度は美琴から上条に先程以上の攻撃があった。
 右腕に当たる『柔らかい』感触がそれである。

 この一年で、美琴の慎ましかった膨らみは成長していた。
 母親である美鈴にはまだまだ及ばないが、少しずつ少女から女性へと変化し始めているのだ。
 今では、後輩の佐天に勝るとも劣らない程になってきている。

 その柔らかい膨らみが、自分の右腕に当たっているのだ。
 イヤ、当たっているだけならまだ良い。
 どちらかと言えば、包み込まれている。とまでは行かないにせよ、自分の腕がその柔らかい膨らみに埋まっている。
 と言える状態である。
 先程の美琴の浴衣姿にとてつもない衝撃を受け、『鉄壁』と自負する理性の壁が『ガラガラ』と音を立てて崩れていくのを自覚した上条に、更なる攻撃が飛んできたのだから堪らない。

 上条はその攻撃に全身を硬直させる。
 そうする以外にその攻撃に対抗すべき手段はなかった。
 と言うより、その攻撃でそうなってしまったのだが……。
 美琴に腕を離してくれるよう声をかけようと、硬直した首を錆び付いたドアを開くように動かす。
 そして、美琴に声をかけようと見下ろした時にそこにあったのは……
 上条の右腕に必死にしがみついている美琴のうなじから浴衣の襟足に伸びたほんのりと桜色に染まった素肌だった。

『(ドッッキィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!!!!!!!!)』

『ぐりん!!!!!』

 と音がする程の速度で、視線を外す。
 音速を超えていたかも知れない。
 首が少し痛かったが気にしているヒマなどない。
 と同時に心臓が早鐘を打ち出す。
 それも喧しいことこの上ない程に。

『ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……』

 顔は既に真っ赤に染まっていることだろう。
 顔が外気温以上に熱いことが自覚できる。
 それに、先程から全く別の箇所に血液が集まっているのを感じている。

「(落ち着け。落ち着け、俺!!! み、みみ、みみみみみ御坂は中学生なんだぞ。中学生相手にこんな感情を抱くなんて……。紳士たる上条さんに許される訳がない!!!!! 落ち着け、落ち着け)」

 必死に冷静に努めようとする上条だったが、右腕に当たる柔らかい感触はまだ続いている。
 このままでは、『鉄壁』の理性とやらも崩壊は時間の問題だ。
 だからといって、無理矢理振り解くにはあまりにも誘惑が大きすぎた。
 自分の中で、ずっとこのままで居たい。という想いが確かに大きくなっているのだ。

 だから美琴に声をかけた。
 今の状況から、気を紛らわせるにはそれしかなかったからだ。

「み、御坂……。だ、大丈夫か?」

 美琴に向かって言っているのだが、顔はそちらを向いていない。
 むしろ逆方向を向いている。

「あ……うん。あ……ありがとね……」
「そ、そっか……。そ、それは良かったよ……。アハ、アハハハ……」

 上条はもう、自分が何を言っているのか分からないほどだった。
 それほどにテンパっていた。

 だが、美琴はそんなコトなど分からない。
 それよりも、自分が漏電しそうになったのを右腕で支えてくれて、いつの間にか自分の手を握ってくれている上条の右手が嬉しく、頼もしかった。
 だから……

「あ、あの……お願いがあるんだけど……」
「な、何だ?」
「またいつ漏電しちゃうか分からないから……、このまま手を繋いでて……欲しいの……」

 そう話す美琴の方をチラッと見る。
 美琴は桜色に染めた頬に、ウルウルと濡れた瞳で上目遣いに上条を見つめていた。
 そしてその顔の下には、柔らかな膨らみに挿まれた自分の腕と、それによってほんの少しはだけた胸元が目に飛び込んできた。

「ボンッ!!!(////////////////////)」

 唯一の救いは、肝心な所が自分の腕で隠れていたこと。
 お陰で何とか理性を保つことが出来た。

「きょ、今日のお前は……反則過ぎだ。……上条さんは御坂さんにメロメロにされそうです」
「ふえ?」
「あ、イヤ……。……手……繋いでて、いいんだな」
「う……うんッ!!!」

 嬉しそうに満面の笑みを見せる美琴。
 その笑顔を見た途端、ある感情が上条を支配する。
 『出来ることなら、この笑顔を独り占めしたい』と。

(お、俺は何を考えているのでせう? でも……でもッ……今日の御坂は俺の知らない御坂だ。そんな御坂をもっと見たい……。そう思うオレが確かに居る)

 上条は自分の中から溢れてくる感情に戸惑いを隠せなかった。





『ヒューーーー。ドォオオオオン!!!』
『ドォオン!!! パチパチパチパチ……』

 二人は手を繋いだまま、高台に移動していた。
 そこで並んで花火を見ている。

 さすがに『学園都市』主催の花火大会だった。
 『外』の世界の技術では到底作れないような色取り取りの花火が上がっている。
 中にはとんでもなくヘンテコなヤツもあったりするのだが……それはそれでご愛敬だった。

 どうやらこの高台は穴場のようで、チラホラと人が居る程度だった。
 ほぼ、目の前で花火が咲いている。
 低い花火は見下ろして見ることになる。
 花火は見上げて見るものだから、それがこの場所に人が少ない理由かも知れない。

 それでも二人は花火を満喫していた。
 いや、花火を見ているのは美琴だけだった。
 上条は、その花火を見ている美琴を見ていた。

 色取り取りの花火に照らされるその横顔は、上条が知っているようで知らなかった美琴の顔だった。
 その横顔を見ながら上条は

(綺麗だな)

 と自然にそう思っていた。

 今まで知っているようで知らなかった御坂美琴という少女が隣にいる。
 その事が、不幸な自分を幸せにしてくれそうな気がした。
 だが、もう一人の自分が『そんな妄想に囚われるな』という。
 『不幸な自分は不幸なままだ』ともう一人の自分が言う。
 『普通に生きられること。それだけで幸せなのだ』と……。
 しかし今の上条にその言葉は届かなかった。

「あッ、ゲコ太!!!」

 美琴が嬉しそうに叫んだ。
 夜空を見ると、そこにはヒゲを生やしたカエルの顔がうっすらと光っていて、すぐに消えていった。
 また美琴の方を見ると、美琴は何も無くなった空をまだ見つめている。
 その嬉しそうな笑顔を見た途端、胸が熱くなった。

 繋いだ手を握る力が自然と強くなった。
 そして……

「御坂……。これからも俺の傍に居てくれな……」
『ドォォオオオオオオオンッ!!!!!』
「え? 何か言った?」
「……あ、イヤ……。……何でも無いよ……。綺麗だな」
「うん、ホントに綺麗。……当麻、連れて来てくれて……ありがとね……」
「ああ。……喜んで貰えて、上条さんは幸せですよ」

 上条当麻の一世一代の告白は、花火と共に空に消えた。





 そう思っていたのだが……。
 美琴を常盤台の寮の近くまで送って行った。

「今日はありがとね。楽しかったわ」
「お、俺もだよ。ありがとな」
「また誘ってくれる?」
「機会があればな……。それじゃあ……」
「ちょ、ちょっと待って……。……あ、あのさ……。……花火の時に、言ったこと。……信じてイイの?」
「え?」
「『俺の傍に居てくれ』って言ったでしょ?」
「う……。……ああ、言ったぞ!!!」
「本気なの?」

 まさか聞かれていたとは思っていなかった。
 自分でも聞こえないくらい小さな声だったから。
 でも、彼女は確かに聞いていてくれたのだ。
 自分の一世一代の告白を。
 そう思った時、自然と身体が動いた。
 美琴と繋いだ手を自分に引き寄せ、美琴を抱き締めていた。
 そして……美琴の頭を自分の胸に押し付けてこう言った。

「ずっと、俺の傍に居てくれ。美琴」

 美琴の手が自分の背中に回るのを感じた。
 そして……消え入りそうな美琴の声が聞こえた。
 その声を上条当麻は一生忘れないだろうと思った。

「うん……。離さないでね、当麻」

「ありがとう。美琴……好きだ」


Fin


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