とある雑誌の能力占い【フォーチュンテリング】
星座占い、血液型占い、手相占い……
今も昔も、女の子というのは占いが大好きな生き物だ。
それはオカルトから縁遠い、ここ学園都市でも変わらないらしく、
「最近流行りの『能力占い』って知ってますか!?」
と、佐天涙子は目を輝かせる。
Joseph's【いつものファミレス】に集まったTHE4名様【いつもの4人】は、
いつも通り無駄なおしゃべり【ガールズトーク】の最中だ。
例のごとく、話のネタ提供担当の佐天は、コンビニの袋から一冊の雑誌を取り出した。
佐天が開いたのは一見どこにでもある女性誌だが、
実は学園都市でしか販売されていない、いわゆるタウン情報誌である。
佐天はパラパラと雑誌をめくり、
『今週の能力占い』と書かれたページを他の3人にも見えるように、テーブルの中央に置く。
「占いですの~?」
胡散臭そうに見つめるのは白井黒子。
彼女は紅茶を一口含みながら、興味なさそうに相槌を打つ。
「あっ、私聞いたことがあります。ものすごく当たるって有名ですよね」
雑誌をチラチラ見ながら巨大パフェと格闘しているのは初春飾利。
冗談みたいな量の生クリームとアイスが、みるみるうちに彼女の血となり肉となっていく。
「けど、この科学の街で占いって……それより次のページちょっと見せて」
占いコーナーよりも、最新のファンシーグッズコーナーが気になって仕方ないのは御坂美琴。
中高生向けの雑誌なので、ゲコ太はまず載っていないと思われるが。
「いやいや、初春が言ってたようにかなり当たるんですよコレ!!」
「ですがやはりマユツバですの」
「何言ってるんですか! これオカルトとかじゃなくて、ちゃんとした統計学なんですから!!」
佐天が言うにはこの占い、学生達がとる行動を能力別に事細かく記録し、
その膨大なデータを元に、今週最も起こり得る可能性が高い事象を予測し、
順位をつけてランキング形式で載せたものらしい。
「でも私の能力が載ってません……」
「だって初春の能力って特殊【マニアック】じゃん」
「それにしても本当に当たりますの?」
「確かに…例えば発火能力者なんていっぱいいるけど、全員同じ運勢なんて考えられないわよね」
「いやいやいや! 占いを監修してる人がレベル4の予知能力者の方だから間違いないですって!」
それに実際、あたしの運勢的中したんですから!」
「へぇ、どんな風に?」
「『今週の第6位は空力使い。金運が大幅UP! でも水難には要注意!』って書いてあるじゃないですか。
一昨日、寮の水道が壊れてビショビショになっちゃったんですけど、
今日なんと!! スクラッチくじで3万円当たったんですよ!! すごくないですか!?」
「偶然ではありませんの?」
「まだ信じられないんですか!?」
「それだけでは何とも言えませんわよ。初春はどう思いますの?」
「どうでもいいですよ…どうせ私の能力は存在感がない【のってない】んですから……」
「…まだ気にしてましたの……」
初春はテーブルにあごを乗せ、スプーンをくわえたまま膨れている。相当ショックだったらしい。
と、その時、先程の占いを聞いて、美琴はふと思い出した。
「……ねぇ…婚后さんも空力使いよね」
「あっ、そう言えばそうですね。まぁ、レベルはあたしとは桁違いですけど」
「ウチの学校、4日前に身体検査やったんだけどさ、
湾内さんが水流操作の測定する時に、婚后さん近くにいたらしいのね?」
「あ…も、もしかして…?」
「うん。ずぶ濡れになっちゃったんだって」
「それこそ偶然ではありませんの? たまたまですわよ。たまたま」
「私もそれだけなら、ただの偶然だと思うんだけど……」
美琴も半信半疑だったので、言おうか言うまいか少しためらったが、一呼吸置いてから切り出した。
「…今週、婚后航空の株価が大きく値上がりしたってニュースでやってたのよね……」
周りが一瞬、ピシリと固まった。
「い、いや~! さすがにそれは関係ないんじゃないですかね~!?」
「そ、そうですよ! それにほら、それって婚后さん自身の事じゃありませんし……」
「だ、だよね! さすがにないよね!」
あはははは、と乾いた笑いが響き渡る。
いくらなんでも、こんな大事を雑誌の占いで的中させたとは考えにくい。
だがもし、これが本当に占いの力だったとしたら―――
「……ちなみに、今週の空間移動はどうなっておりますの…?」
さすがの白井も、少し興味が出てきたらしい。
「あっ、えっ、えっと……
『今週の第11位は空間移動。能力運が急上昇!
だけど思わぬアクシデントで自分の計画通りに行動できないかも…』
だ、そうです」
「ほ、ほらみなさい! わたくし、自分で立てた計画がご破算になった事はありませんわよ!?」
「あ、でも身体検査で好成績が出たって喜んでたわよね…?」
「そ、それは普段からの積み重ねの賜物ですの! け、決して運が良かったなどと……」
「じゃあ御坂さんの運勢も見てみましょうか」
「そうだね。それも当たってたら、この占いは本物って事で。えー、電撃使い、電撃使い……あった!
『今週の第2位は電撃使い! 恋愛運120%! 憧れの彼から急なお誘い!?
普段よりも大胆になれれば結ばれちゃうかも!! ラッキーアイテムはトイレットペーパー』
ですって御坂さん……って! こ、これって!?」
「えっ……………えええええええええ!!!!?」
あまりにもとんでもない内容に、美琴は叫んだ。
もしこの占いが本物だとしたら、6位の空力使いですらこれだけの効果があったのだ。
果たして2位の電撃使いは如何程なのか。
「み、御坂さん! 今週ってもう、今日しかないですよ!?」
「でででででもべ、べべ別にほら、私、あああ、あこ、憧れの彼とかいないし!? 私そんなんじゃないし!?」
美琴は、ティーカップをカタカタ鳴らしながら手でつまみ、すでに空になっているはずの紅茶を飲み干す。
明らかに目は泳いでおり、脚は残像が見えるほどにビートを刻んで【びんぼうゆすりして】いる。
誰がどう見ても、動揺しているのは明らかだった。
「いやいやいや! 意地張ってる場合じゃないでしょ!」
「そうですよ御坂さん! せっかくの大チャンスなんですから!」
「うぅ……で…でも………」
このままではマズイ! と白井は本能的に悟った。
美琴の性格上、『あの男』に素直になる事は当分ないだろうと踏んでいたが、ここにきてこの占いだ。
しかも美琴は芯のしっかりしたイメージがあるが、意外なところで押しに弱く、流されやすい一面がある。
このまま初春と佐天に押し切られればいずれは……
「ま、まぁ、そういうのアレはないんだけど、二人がそこまで言うならちょっとだけ気にしてみようかな!?
てか関係ないけど今日アレだったわ! 急用があった気がする!
べべべ別にアイツの所に行く訳じゃないどね!? 勘違いしないでね!?」
ほれ来た! と白井は心の中で舌打ちをする。
まだ誰も『アイツ』の話をしていないのにこの反応。だがそうはさせない。
「お、お待ちくださいましお姉様! 気になる殿方がいらっしゃらないなら、そんなにお急ぎになる事は―――」
しかし、白井が美琴を引き止めよう【じゃまをしようと】した時、白井のケータイが鳴り響く。
「ああもう! 誰ですのこんな時に! もしもし!?」
『あ、白井さん!? 至急現場に行って欲しいんだけど!』
電話の相手は固法だった。
何でもスキルアウトがコンビニ強盗したとの通報があり、風紀委員にも要請があったらしい。
そして最も早く駆けつけられるのが、空間移動使いの白井なのだ。
何もこんな時に! と思う白井だったが、ふと先程の占いを思い出す。
『思わぬアクシデントで自分の計画通りに行動できないかも』
(ま、まさか……いや、ぐ、偶然ですの!! そうでなければ―――)
そう。
そうでなければ、占いが本物と認めることになる。
それはつまり、電撃使いの運勢も大当たりする事を意味する。
となると勿論……
「あ、あ、あ、ありえませんわあああああ!!!!!」
「白井さん、いいから現場に向かってください。こんなとこで叫んでないで」
「ぐ、ぐうぅぅ……」
初春に冷静にツッコまれ、白井は渋々店を出た。
この後、今週の運勢が最下位の、発火能力を持つコンビニ強盗は、
白井の腹いせにこっぴどく付き合わされる事となる。
「で、御坂さんも急いでるんじゃありませんでしたか?」
「…ふぇ!? あああぁ、そ、そういえばそうだったわね! べ、べ、別に―――」
「別にウワサの彼氏さんの事じゃないんですよね! 分かってますから♪」
「そ、そうよ! 別にアイツの……って! だ、だから! かかかか彼氏じゃないってば!!!」
「だから分かってますってば! もう、何十回繰り返してんですか、このくだり」
「だだだって……佐天さんが……」
「はいはい、佐天さんには私がキツく言っておきますから。ほら、『今週』は後もう6時間強しかないですよ?」
「えっ!!? もうこんな時間!? じゃ、じゃあ急用済ませてくる!!!
あっ、えと…お会計! 後で払うから!!」
「いえいえ、ここはあたしと初春が奢りますから、御坂さんは早く急いで急いで!」
「あ、う、うん。ごめんね!?」
何やら急用があるらしい美琴は、急いで何処かに走り出した。
一体ドコヘ向カッタンダロウナー。全然検討ツカナイヤー。
とある雑誌の能力占い【フォーチュンテリング】
美琴がファミレスから出て街中をぶらぶら歩いていると、ある人物が話しかけてきた。
「あ、あれ~? ぐ、偶然だな美琴。こんな所で会うなんて」
彼の名前は上条当麻。実は美琴の事が好きなのに、いつも素直になれないシャイな高校1年生だ。
今もこうして偶然を装い美琴に話しかけている。
「やや、やっぱアレなんじゃねぇか?
俺たちってこう……う、う、運命的な何かで……その…繋がってたりなんかしたりして……
あっ! い、いや! 何でもないですはい!!」
いつもこんな感じだ。何とも煮え切らない。
だが、いつもならこのままうやむやになってしまうが今日は違う。
こちらには恋愛運120%の運勢【ぶき】がある。
美琴も、『結ばれるかもしれない』という、普段とは違う大胆な行動をとってみた。
「みっ! みみみみ美琴さん!!? 何故ワタクシめは急に抱き締められたのでせうか!!?」
すると美琴は答えた。ただこうしたかったからなのだと。
上条は生唾をゴクリと飲み、そのまま懐から何かを取り出した。
それは純白のトイレットペーパー、まさに占いに出ていたラッキーアイテムだ。
しかもシングルではない。ダブルでさらに香りつき、拭き心地も滑らかな最高級品だったのだ。
上条にとっては給料の3ヶ月分のそのペーパーを、美琴の左手薬指に巻きつける。
あたかもエンゲージリングのように……
「美琴……」
そして二つの影が重なり合い、二人はお互いの愛を確かめ合ったのであった。
と、なるとでも思っただろうか。
残念ながらそれは幻想だ。先程までのは、ただの美琴の妄想【シミュレーション】に過ぎない。
というかいくらなんでも、最後のトイレットペーパーのくだりは無理がありすぎるだろう。
ちなみに当の本人【みこと】はというと、
「でで、でもそんな……こんなとこで? も、もう! しょうがないなぁ……」
と、まだ夢【あっち】の世界から帰ってきていない。
本人が楽しそうなので別に構わないが、何だか見ていて可哀相な気分になってくる。
美琴が実際にいるのは、上条がよく来るスーパーの前だ。
ここが一番、上条とのエンカウント率が高いらしい。
ちなみに、今更だが美琴にとっての憧れの彼とは上条の事である。
いや、美琴だけではない。彼に想いを寄せる女性は星の数ほど…とまではいかないまでも大勢いる。
それなのに上条に彼女ができたという記録はない。
その理由は、彼が超の付くほどの不幸体質【どんかん】だったからだ。
今まで女性からのアプローチは数々あった。それは美琴も同じだ。
だがこの上条という男、それらに一切気付かないのがデフォルトなのである。
自ら建てたフラグを、自らの手で破壊する。そんな事を普段から無自覚に繰り返しているのだ。
まさにシムシティの市長のような存在である。
だがしかし、今週(正確には残り6時間程度だが)の美琴にはそれらを弾き返す…かもしれない程の力がある。
第2位の運勢を持つ電撃使いは、はたして上条の鈍感力を『そげぶ』する事はできるのだろうか。
と、その時である。
「あれ? 偶然だな美琴。こんな所で会うなんて」
「のわあああああああああああい!!!!!!」
横から憧れの彼【かみじょうとうま】が話しかけてきた。
まだ絶賛妄想中だった美琴は、急激に現実に戻され、よく分からない奇声を上げる。
「えっ、な、何だ!? どうした急に!?」
「どどどどどうしたじゃないわよ!!! 驚かすんじゃないわよ馬鹿!!!」
「いや…普通に話しかけただけなんだが……」
この場合上条の方が正しいが、世の中必ずしも正しい方が正義という訳ではない。
これは上条が悪いのだ。理由は特にないが、そういうものなのだ。
「で!? な、何か私に用なの!?」
「あー…いや。特に用って訳じゃ……」
言いかけて上条はある事を思いつく。
「あっ! そうだ! 会ったついでに、ちょっと来てくれないか!?」
「!!!?」
上条が親指でクイッと後ろを指す。
こんな事はめったにない。
これは正に、占いにでていた『憧れの彼から急なお誘い!?』に該当するのではないだろうか。
と言う事はまさか―――
「どどどどどどこへ!!!?」
美琴は期待やら興奮やら恥ずかしさやら何やらで、もう挙動不審だ。
だが上条の指した場所とは、
「そこのスーパー、一緒に来てくれよ。今日、醤油が安いんだけど、一人一本しか買えないからさ
ただレジで隣に並んでくれるだけでいいから、な? 頼む!」
何だか思ってたのと違う。
というか、これはいつも通りではないだろうか。
だが一応、占いが外れている訳ではないので、若干腑には落ちないが、美琴はそのまま上条の後を付いていく。
スーパーの中でも、上条は普段通りだった。
「うおっ! ネギやっすいなー! あ…でも今日は使う予定はないし……でも安いしなー……」
「おっ! 見てみろよ美琴。ウインナーの試食やってるぜ。ちょっと食わない?」
「んー……胸肉は他の【あっちの】スーパーのが安いな。止めとくか」
「冷凍品、今日半額かぁ……う~ん、どうすっかな…けどインデックス、レンジ使えないし……」
「卵は買っとこう。最近たまごかけご飯にハマッててさ。美琴は醤油派? それともめんつゆ派?」
もう本当に、ビックリするくらい普段通りだった。
もっとこう、ラブでロマンスな会話を期待していたのに、一向にその気配はない。
正直、たまごかけご飯の派閥の話など、心の底からどうっっっでもいいのだが。
本当に恋愛運120%なのか疑いたくなってくる。
だがまだチャンスはある。
ラッキーアイテムの効力を、まだ試していないのだ。
とはいえ、トイレットペーパーをどのように使えば恋愛運が上がるのか皆目検討もつかない。
まさか本当に指に巻く訳にもいかないし。
そこで美琴は、
「ね、ねぇ…トイレットペーパーって……その…どうかしら…?」
と、丸投げした。どうかしらと聞かれても、どうなのかしら。
「えっ!? ど、どうって……」
上条も困っている。そりゃそうだろう。
と、思いきや。
「あっ!! そういえば、紙切れかけてたっけ!! いやー、思い出して良かった。ありがとな、美琴」
一応、上条の好感度が上がった。
が、やはり何か違う。この程度が本当に、あの占いの効果なのだろうか。
その事に対して美琴は、
(あ、ありがとな…だって……キャーどうしよー! 何か笑顔だったし! か、顔が緩む~~~!!!)
と、意外と不満はないらしい。
本人が嬉しそうなので別に構わないが、何だか見ていて泣きたい気分になってくる。
(あ、後は私がちょっと大胆になれれば……も、ももももしかして本当に~~~!!!?)
正直、そんな気配は毛ほどもない気がするが、舞い上がっちゃってるから仕方ない。
買い物が終わりスーパーを出た二人は、常盤台の女子寮に向かって歩いている。
なんでも買い物に付き合ってくれたお礼に、上条が送ってくれる、との事だった。
おそらくこの時間が『大胆』になれる最後のチャンスだろう。
ここで決めなくては全て水の泡だ。
何だか寮へと向かう足取りも重くなっていく気がして、とても歩きにくい。
(そそそそうよ! が、頑張んなさい美琴!! あなたはやれば出来る子よ!!!)
心の中で自分を励ます美琴。そして彼女はこう切り出した。
「ね、ねぇ……将来の事とか考えてる…?」
ちょっと遠すぎやしないだろうか。ここから『大胆』には、どう着地すればいいというのか。
「将来? あー…そういやまだ考えてないな……進路希望も白紙で提出しちまったし……」
きっと小萌先生の悩みの種を、また一つ増やしてくれたことだろう。
「そういう美琴はどうなんだ?
常盤台って、義務教育終了までに世界に通じる人材を育成する、が教育方針だろ?
卒業後はどうすんだ? てか夢とかあんのか?」
「わ、私は……」
言いかけて、美琴は俯いた。
「……笑わない…?」
「笑わねーよ」
一瞬口ごもった後、ぽそっと呟いた。
「……ん………」
「…? ごめん、聞こえなかった。今、何つったん?」
「……めさん………」
「何さんて?」
「お………お嫁さん!!! 誰か素敵な人のお嫁さんになるのが子供の頃からの夢だったの!!!
わ、分かってるわよ!!! 子供っぽい夢だって!!!」
これが美琴なりの『大胆』らしい。
はたして上条の反応はどうだろうか。
「へぇ、いいんじゃねぇか? 女の子らしくて可愛いと思うぞ」
「か、かわっ!!?」
意外なほど効果があった。
これなら本当に、占い通りになるかもしれない。
「じゃあ後は婿さん探しだな」
この言葉を待っていた。
後は上条の名前を『大胆』に告げれば、『結ばれる』に違いない。
美琴は人生で一番の勇気を振り絞り、その名前を口に出そうとする。
「そ、そそそそれは!! も、もも、もう!! ち、ちか、ちか、近くに―――」
「!!! ちょっと待ってくれ、美琴」
「ふぇ!?」
もう少しのところで上条が言葉を遮る。
だが、さすがの上条も何かを悟ったのだろう。今までにない真剣な顔をしている。
「美琴…ちょっと動くなよ」
上条の瞳は、じっと美琴を見つめている。
もう間違いない。ついに結ばれる時が来たのだ。
美琴は耐え切れず、ギュッと目を瞑った。
そして―――
「これでよし! 美琴の靴紐解けてたから結んどいたぞ。 ひょっとして歩きにくかったんじゃないか?」
結ばれた。靴紐を。
「……………………へ? 靴紐?」
「と、もう女子寮に着いたか。じゃあな美琴! 買い物付き合ってくれて今日はホントにありがとな!」
上条は爽やかに別れを告げ、颯爽と帰っていく。
あまりの事に演算能力が追いつかず、美琴はただただ呆然としていた。
確かに占いは当たった。
『憧れの彼から急なお誘い』…なるほど、確かにスーパーに誘われた。
『ラッキーアイテムはトイレットペーパー』…なるほど、確かに上条に感謝された。
『大胆になれれば結ばれる』…なるほど、確かに最後に結ばれた。靴紐を。
うん、全部当たったはずなのに、何だろうこの気持ちは。
これが恋愛運120%の力なら、上条を攻略するには100000000%は必要なんじゃないだろうか。
幻想殺し。
それは異能の力だけではなく、神のご加護や運命の赤い糸すらも消し去ってしまうという。
「何なのよ! このオチは!!」