とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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想いを乗せた拳の向かう先



「むむむ~」
85点の壁が厚い。御坂美琴はパンチングマシーンの前で唸っている。
(佐天さんがあんなにアッサリ90点出したのに…)

夏休みだったから、もう半年前の話だ。
ゲームセンターでいつもの4人で遊んでいたとき、何の気なしにやってみたパンチング勝負。
結果、佐天に負けた。
負けず嫌いの美琴としては、スッキリしないものがずっと残っていた。
今日、たまたま暇つぶしにゲームセンターに立ち寄った際、同じパンチングマシーンが鎮座しているのを見て、
再挑戦してみたのである、が…

何度やっても最高は85点どまり。
やればやるほど、疲れも出るせいか点数も落ちて行く。
「うーん…」
悔しい。
しかしこれ以上は見込みもなく、下に置いていたカバンを手に取り、ゲームセンターを出ようとした、その時。

出口のガラス越しに、買い物袋を下げてのんびりと歩いている上条の姿があった。
(アイツのパンチ力は凄かったはず!)
美琴は上条を追いかけた。


ん?
自分の学生服が遠慮がちに引っ張られる感触がある。
「あれ?御坂か」
「ちょ、ちょっといい?あの、見せて欲しいものがあって」
「ん、なんだ?」
「すぐ終わるから、そこのゲームセンターに…」
ま、ヒマだしいいか、と上条は頷く。

一緒に歩きながら、上条は美琴に話しかける。
「なんか最近、御坂丸くなってないか?」
「えっ、な、何?」
「いや昔だったらさ、電撃放って、無理やり俺を引きずっていくパターンだろ。なんか違うなあ、と」
御坂は真っ赤になって、返せない。というより、ずっと俯きがちに頬を赤くしていたのだが。

年も明け、美琴の上条に対する想いは、日増しに重症になっていた。
何がきっかけでパンクするか、何を口走ってしまうか、もはや美琴も考えられない状況である。
しかし、それでも、次の一歩には踏み込めない美琴であった。

「このゲームか?」
「ちょっとパンチ見せてよ。お金入れるわね」
「純粋なパンチ力は出ないんじゃないですかね、こういうのは」
「そうかもね。でもフォームだけでも参考になるかなって」
「んじゃ…まずは力任せでやってみるか。これは参考になんねーかも」

上条は2,3歩離れて深呼吸する。そして小さく呟く。
「歯ァ食いしばれよ最強―――」
美琴はハッとする。
「―――――俺の最弱は、ちっとばっか響くぜ!」
一気に踏み込んで、大振りのパンチを叩き込む。
(確かあの時、こんな事いいながら殴ったよなあ?)
と、上条は呑気に思い出していた。横で噴火しかけている美琴には気付かず。
(バ、バカ!なんてこと思い出させるのよ!)

『ドドォン!』と謎の男が画面に現れ…105点。
「あー、やっぱりな。見た目は派手だけど」
「それでも、私の限界をあっさり超えちゃってるわね…」
「女の子なんだから、そんなとこで張りあわなくてよろしい。次は真面目に…」
「…!」
『女の子』という言葉に反応する美琴。さっきから上条の言動一つに振り回されっぱなしである。

今度は助走距離をほとんどとらず、上条は念入りに位置調整をしている。
「さてと、それじゃいく」
ふうっ、と一息つくと、

「その幻想を―――――ッぶち壊す!」
体を捻り、螺旋の力が腕に乗るように、押し込むようにパンチを打ち込む。
『ドドォン!』120点!
「す、すごい!」
「ふん、こんなもんかな」

「まあコツはだな、押し込むように、下に叩き込むように、打つ。ただ打つだけだと、力が横に分散されちまうんだよ」
「うーん、やってみる」
「とりあえず、打つまでは今までのやり方でいいから、やってみ。」
美琴は頷くと、ベージュ色のブレザーを脱いで、コインを入れて構えた。

(下へ…叩き込むように!)
「ちぇいさーっ!」
手応えはさっきと変わらない。どうだ!?

『ドドォン!』…90点。
「やったー!初の90点!」
まずは佐天の点数に並んだ。
喜びつつ、上条の方を振り向くと、首をかしげている。
「どうしたの?」
「んー、バランスが悪いんだよなー…殴りポーズやってみ」

「…こう、かなあ」
「ちょっと触るぞ。左腕が死んでるのがもったいないんだよな」
といいつつ、美琴の右肩と、左腕を後ろから掴む。
「……!」
「右肩を入れてパンチした瞬間、左腕を、こう…引くんだ。反動で威力が増す」

(ち、近い近い!)
美琴はいきなり触られたのと、至近距離で説明する上条に舞い上がる。
「あと、インパクトの瞬間に腰が逃げたように見えたから、ここも意識して、」
といいつつ、左腕を掴んでいた手を離し、美琴の左腰後ろに手を当てる――

「ひゃんっ!」
2人の時が、止まる。

「…非常に、かわいらしい声が聞こえたのは気のせいか?」
「…し、知らない。いいから続けて」
美琴は、自分でも何であんな声が出たのか分からない。
何かが体の中を通り抜けていった感覚だけが残った。

上条は、再度、美琴の右肩を掴み、左腰に手を軽く当てる。今度は美琴も我慢できた。
「腰は支点だから、動かしちゃだめだぞ。腰を意識しつつ、右肩を入れる」
そう言って、右肩を強く押し、左腰を強く支え――

「ひゃうん!」

「……」
「…ご、ごめん。私腰弱いみたい」
さすがの上条も、今の言葉と、やや潤みがちな美琴の目を見て、美琴の何かを刺激したことを感じ取る。
「いやわりい。ちょっと気安く触りすぎたな」
「そ、そんなことない!私もなんであんな声出るのか分かんないもの!」
「ま、まあやってみな」
この件にあまり触れると、上条自身も内なる何かを刺激しそうな気がしたので、慌てて話を戻す。

(し、深呼吸、深呼吸!)
美琴は、すーは、すーは、と深呼吸して落ち着くよう、努める。
「ああ、あと力みすぎ。インパクトの瞬間までフワっと軽く握る感じが一番いい」
「おっし」
「力は腰だけに入れ、あとは上半身と左腕を引く力にして、打ち込むだけだ!いけいけ!」

すうっ、息を止める。
(いっけえええー!!)
「ちぇいやーっ!」
打ち抜いた瞬間、美琴の背に、ぞくんと何かが走った。
(なに?今の!?)

『ドドォン!』…105点!
「うそ…」
「うはすっげえ。女の子の点じゃねーだろこれ」
「な、なんか打った瞬間、背中ぞくぞくってした…」
「ああ、そりゃいわゆる『会心の一撃』ってヤツ」
「会心の…一撃。」
「自分のイメージ通りに体って動かないだろ、えてして。イメージ通りに動けた時、そうなるんだよ」
「へえ…」
「そっか、お前LV5だもんな。イメージを実現する力は並外れてるんだろな、きっと」

2人は機嫌よく、ゲームセンターを後にした。
「ほんとありがとね。ほんと嬉しい」
「素直な御坂萌えー、ってな気分だな。まあ教えた甲斐があったので、カミジョーさんとしても喜ばしい」
「…お礼しないと気が済まないんだけど。」
「いらねってそんなもん。俺もタダで遊べたし」
「えと、今週の日曜あいてる?ちょっとぐらいお返しさせてよ」
「日曜は空いてるけどさ…俺がまたお返ししなくちゃいけなくなるようなレベルだとゴメンだぞ」
「そんなに構えないでよー。まあ気軽に遊ぶってことで。時間はメールするね」
「ああ。…そうそう、手首マッサージしとけよ。普段使ってない筋肉だから、明日クルぞ」
「うへ、わかった。んじゃ私こっちだから。じゃねー」
「ういさー」

上条は買い物袋を逆の手に持ち直し、いま別れた美琴について考える。
最近、電撃を右手で封じた記憶がない。
敵から友達へ昇格したんかねえ、とぼんやり考える。
そういや日曜遊ぼう、て言ってたな…
上条の足が止まる。

つまりデートってことなのか?
い、いや、アイツもそこまで考えての発言じゃないだろう。
さっきのゲームセンターだって、見ようによっちゃデートだ。
浮き足立って考える必要はない…と、上条は自分を静める。

とりあえず、日曜のスケジュールにメモしておこうと、携帯を開く。
(日曜は、と…‥え?)
その日曜は、2月14日であった。



美琴は歩きながら、浮かんでくる笑いを止められない。
(2月14日の約束ゲットー!)
今年のバレンタインデーは日曜であり、通学帰りのどさくさ紛れ技が使えない。
何とかして上条とさりげなく約束できないか悶々としていたが…

美琴は顔を引き締めると、歩みを速めた。
(結果はともかく、もうケリつけないと、もう私の心がもたない!)
日曜への決意を秘めて…



fin.


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