向かう先は、ミコトDX?
<「想いを乗せたココロの向かう先」の続編となります。上琴カップル成立後、ということで。>
「不幸だったな…」
「不幸だったね…」
2人は、久々に会えたのにも関わらず、ため息ばかりついている。
――事の起こりは一週間前、バレンタインデー。
御坂美琴の告白は上条当麻の心を捕らえ、2人の交際は始まった。
シスターズの襲撃を、あまりホメられたものではない手法で退け、
遅れながらも予約していた店に飛び込み、楽しい時を過ごす、はずだった。
正確には、過ごせたのだが、そこには悲劇――いや、喜劇が待ち構えていた。
美琴は2人でつつきあって食べているチョコレートケーキを切り分けながら尋ねた。
量より質と言っていた通り、上品な味で、分量は上条なら一人でペロリと食べられるほどだった。
「当麻は金曜日にチョコ貰えなかったの?」
「机の中にいくつか。あまり話したこともない子ばっかりだったけどな」
「普段よく話す子は無かったってこと?」
上条は吹寄制理や姫神秋沙の顔を思い浮かべながら、
「無かったなあ。まあ俺がお返しにも苦労する貧乏人だと知ってるせいじゃねーか?」
そんなわけあるかっ!と美琴は心の中で突っ込む。
前日に渡すようなレベルではなく、当日渡すことに意味を持つ…ド本命じゃないの!
つくづく、今日のこの一歩を踏み出せないでいたら、自分の恋は終わっていたかもしれないと思うと、冷や汗が出る。
ちょうどいいタイミングと思った美琴は、カバンからごそごそと包みを取り出す。
「はい、プレゼント。チョコは今日でお腹一杯だと思ったから、これで。」
「ん、サンキュ。この柔らかさはマフラーか?…開けていいか?」
「当たりー。開けて開けて!黒子の目を盗んで編むの大変だったんだから…」
「彼女の手編みマフラーだなんてカミジョーさん夢のようですよ…ほおー」
霜降りのグレー色で編み込んだ、柔らかい風合いのマフラーが出てきた。
「ご、ごめんね。もっと凝ったの作りたいとは思ったんだけど」
「何いってんだ。感動で胸が一杯ってこういうことだな……よし!」
上条はマフラーを広げると、自分と美琴を一緒に巻き込んだ!
「これ一度やってみたかったんだよなー」
「ちょ、ちょっと店の中でマフラーって…恥ずかしいじゃない!」
「気にすんな気にすんな! すっげー柔らかいな、これ」
「こ、このままじゃケーキ食べられないし。右手出せないじゃない」
美琴は上条に密着した形になって右手を動かせず、頬を赤くしながらつぶやいている。
「ほう、じゃあカミジョーさんが食べさせてあげよう。ホレ」
「…!」
上条は左手で美琴の肩を抱き、ケーキの欠片を自分のフォークに差し、美琴の口の前に差し出した。
美琴はますます顔を赤らめ…おずおずと口を開いて、ケーキをほお張った。
むぐむぐと食べ終わると、美琴は左手で口を押さえながらムクれた口調で、
「は、恥ずかしい…しかも欠片おっきいし!」
「そうか、じゃ次は小さいのな」
「じゃなくってー!恥ずかしくて味わかんないって」
「何照れてんだよ。誰も見てな…い?」
固まった上条を見て、美琴はその視線をたどる。
――そう、楽しい時間を過ごせていた。問題は。
マフラーを手渡したあたりから、このシーンが学園都市中に生中継されていたことである。
テレビカメラがしっかりと2人を捉えていた。
◇ ◇ ◇
『はいっ、本日はバレンタインデー! と・い・う・こ・と・で!
恒例の第四学区バレンタインイベントをレポートいたしまぁす!』
学園都市内のローカルTV局はいつでもネタ不足に悩んでいるが、この日に限っては困ることはない。
この日の14時の特集は、第四学区に集まるカップルにカメラを向け、インタビューしようという、シロモノであった。
『この店は有名な創作チョコレートケーキのお店で…あ、撮影だけならという許可が出ましたので、
ちょっと店内を見せていただきましょう!…おじゃましま~す』
本来、店の中をなめるように流して、あとはケーキの紹介を、と考えていたインタビュアーだったが、
やたら目をひく女の子が、ちょうどプレゼントを渡すシーンを目撃し、カメラマンにサインを送る。
カメラマンはすぐ意図を察知し、その女の子とその相方にカメラを固定する。
さほど大きなカメラでなく、大仰でなかったせいか、2人は自分の世界に浸って気づいていない。
音声は拾えなかったが、2人の笑顔はたっぷり数分間、インタビュアーの声も差し挟まれず、続いた。
店を出たインタビュアーは、カメラに向かい、
『申し訳ありません。何かドラマの1シーンを見ているようで…声も出せず見惚れてしまいましたっ!
いやー、あれだけ幸せそうなカップルを見ていると、こちらまで暖かい気持ちになってきますね~。』
白井黒子は、女子寮の談話室のテレビで。
吹寄・姫神・クラスメイトは、デパートのエキシビジョンで。
神裂・五和は、街頭テレビで。
土御門兄妹は、寮で。
その他、めいめいの場所で――
色んな人達が、画面を前に色んな叫び声を、上げた。
「今…のは、テレビカメラだよな?」
上条はマフラーを畳みながら、美琴以外にも尋ねているかのようにつぶやく。
美琴は携帯を取り出し、意を決して土御門舞夏に電話を掛けた。
『…』
「も…もしもし」
『みさかってさー、気を許した人にはあんな表情になるんだなー。ビックリしたぞ―』
「あんな、って、どどどどんなよ!どこからみたの!?」
『えーと、マフラーの包みを渡したとこから、カメラ見つけるまで。たっぷり生放送だったぞー』
「マフラー……ぜん、ぶ…」
美琴もヒマなときはこの番組を結構見ていた。身近な特集をよくやるので、学生はよく見ている。
すなわち…相当の知り合いに見られた!?
『カメラに気付かず、いつキスするかとドキドキしながら見てたー。あーんしてるみさかは永久保存版だなー』
「…私が…色々と……終わったのは、分かった…」
『みさかみさか、落ち込むことないぞー。むしろ別の一面が見れて好感度アップだぞー。恥ずかしいのは分かるけどなー』
「舞夏、ありがとね…また連絡する…」
電源を切り、しばし呆然とする。公開処刑、の言葉が頭をよぎる。これからどんな顔して外を歩けるのだろう…
ふと横を見ると、上条が平然とケーキをたいらげていた。
「さてと、行くか」
「…え?」
「アレ、さ」 上条が顎で入り口を指し示す。
テレビを見たのだろう、大勢が入り口からこちらを見ている。
「これじゃ晒し者だ。次の店はもう無理だな。またタクシーで逃げよーぜ」
「…う、うん」
上条は美琴を守りつつ脱出する。
『知ってる、あの子LV5だぜ』『生で見るとめちゃくちゃ可愛いじゃん』『相手、誰だあれ』等といった声をかき分け。
タクシーに乗り込み、一息ついている上条に美琴はたまらず突っ込む。
「なんでそんな落ち着いてんのよ! た、頼りにはなるけどさ!」
「カミジョーさんにとっては、いつもの不幸か、ってなもんでさ。まあこれで美琴も分かっただろ」
「な…なにが?」
「俺の不幸体質。俺と付き合うってことは、こういうことにも付き合うってことだ」
「初めて、早まったかしらって気分になってきたわ…」
◇ ◇ ◇
2人は話しあった結果、今日はもう落ち着いて話もできず、今後はいつでも会えるからと、解散することにした。
そのまま上条は病院でタクシーを降り、美琴は着替えのためホテルに戻り、日常に戻った…が。
まず美琴は5日間の学校往復以外の外出自粛が言い渡された。
私服での行動は基本禁止であり、また常盤台を代表する人間として強めの罰が与えられた。
美琴にとっては、どの道部屋から出たくない心境だったので、素直に受け入れた。
…白井黒子との空気が最悪だったが、しょげている美琴に嫌味も言えず、黒子は悶々としていた。
上条は、凄まじい1週間となった。
まず、クラス総スカンである。特にチョコを贈ろうと思っていた女性陣の心を粉々に粉砕したのであるから、当然である。
男性陣は言わずもがな。学園最強才色兼備の年下の女の子との交際が始まって、祝うわけがない。
そして一歩校舎を出れば、能力者に追いかけられる。
自分のほうが強いことを証明すればひょっとしてあの美女も、と考える馬鹿者は多く、
上条が無能力者と知った途端、次から次へと襲いかかってくる始末である。
ちなみに、意外なことに白井黒子がジャッジメントの権限もあって、助けてくれていた。
助けられる度に、凄まじい目で睨まれつつ、「貴方の息の根を止めるのは、わたくしですの」とつぶやかれていたが。
そして、世間に疎いインデックスは美琴の事を知らず、上条もまた話していなかった。
美琴にもインデックスとの同居の話はしておらず、上条の悩みは尽きなかった。
そうして、あの日から1週間たった、日曜。
ゲコ太先生との約束で、上条は病院に来ていた。アリバイ工作の条件、シスターズのリハビリの件である。
御坂美琴を連れていっていいかと聞くと、むしろ来て欲しいとのことで、病院で美琴と待ち合わせすることにした。
1週間ぶりに会った美琴は、少しやつれたように見えた。
「不幸だったな…」
「不幸だったね…」
2人は、久々に会えたのにも関わらず、ため息ばかりついている。
「この1週間、やたら注目されてる気がするし、なんか切ない目でじっと見つめられる日々よ。やんなっちゃう」
「俺はよっぽどお前に相応しくないと思われてるのか、とにかく男女問わず総攻撃されてる」
上条を取られたからといって、LV5にケンカを売る者はいない。必然的に可愛さ余って憎さ百倍の法則で上条に向かう。
上条は座っていた長椅子から立ち上がり、
「じゃ、臨床研究エリアだっけか。1時間ほどリハビリに付き合って欲しいってさ。行こう」
「本当に私行っていいのかなあ?」
「むしろ来て欲しいって話だしな」
そう言って上条は美琴の手を掴んで、歩き始める。
「そういえば、あの子たちは?」
「…分からねえ。謝りに行ったが、会ってもらえなかった。」
御坂妹の頬へのキスは、どうやら相当の衝撃を与えたらしい。
「でも、今日これから会うってことよね?」
「そうなんだが…今回のリハビリって特殊な感じがするんだよな。この日この時間しかダメ、って感じでな」
「ふーん」
「よく来たね、上条くん?」
ゲコ太先生がいつもの柔和な表情で声を掛ける。
「こんちわ。先日はありがとうございました。」「こんにちは」
「御坂美琴くんも。来てくれてありがとうだね?」
「今日はね、1時間ほどシスターズの一人と、お話してあげて欲しいんだ。中身は何でもいい」
「はあ…いいっすけど。」
「彼女は、検体番号No.一〇〇三三。…後は、本人に色々聞くといいね?」
「僕はここにいるので、隣の部屋に行っといで。彼女が待っている。」
部屋に入った上条はギョッとした。
自分の高校の女生徒のセーラー服が見えたからである。椅子に座っている。
遅れて入ってきた美琴は、短く叫んだ。
「えっ!?」
シスターズ…つまり御坂妹と同じ顔を予想して入ったが、別人が居た。
別人だが、…見たことがあるような…
「母さんの…若い頃の写真…みたいな」 美琴がつぶやく。
そうか、美鈴さんか! 美鈴さんのクローン!?ってそんなわけ…
ミサカ一〇〇三三号はぺこりと頭を下げ、挨拶した。
「こんにちは。このミサカは成長促進技術によって、肉体年齢が18となっているミサカです」
「なにーーーっ!」
「えええっ!」
「念のため言っておきますが、テスタメントはシスターズ共通ですので、肉体以外は他のシスターズと変わりません、
と、ミサカは説明します。」
「んで、何でウチの制服なんだお前は」
「お姉様の夢を叶えました、とミサカは簡潔に答えます」
「な、何よそれ」
「お姉様の思考パターンを推測しますと、同じ高校で肩を寄せ合って通学する妄想をしたことがありますね?
と、ミサカはえぐるように指さします。」
ミサカ一〇〇三三号はズバッと美琴を指さした。
「な、な、なななな…」
思いっきり図星の美琴は声が出ない。
「しかし交際が始まってしまった以上、からかい甲斐がありませんね、とミサカはため息をつきます」
「あ、アンタねえ!」
(本当の姉妹みたいだな…)
上条はじっくりとミサカ一〇〇三三号を見つめる。
髪の色は変わらないが、ロングが良く似合っていた。
顔立ちは、見比べてみると美琴が幼いように見えてしまう。すっかり大人びている。
というより、可愛い女の子から、美しい女性へと進化していた。
身長は見た目は良く分からない。それほど伸びていないようだ。
問題の?身体の方は、残念ながら制服と椅子に座る姿で判断しづらい…子供っぽさは感じないが。
思わず上条はつぶやく。
「18歳の美琴か…これはこれで…」
「遺伝子に従えばですが。暴飲暴食でミコトDXになるかどうかはお姉様次第です、とミサカはお姉様のお腹を見つめます」
「失礼ね!私はまだお腹はポッコリして…」
横に上条がいることを忘れ、白井黒子と話しているノリで、つい身体の事を喋りかけた美琴は赤面する。
「へー」
美琴のお腹に目をやった上条は、脳天にチョップを食らった。
「お腹ポッコリ…ですか?とミサカは首をかしげます」
言うやいなや、ミサカ一〇〇三三号は自分のスカートを思いっきりまくりあげ、下腹部をのぞき込んだ。
「ば、馬鹿!なにやって…んの?」
上条も思わず目を隠そうとした…が、意外なものが目に入ってしまう。
「な…に…?」
ミサカ一〇〇三三号は短パンを履いていた。
上条は衝撃を受けていた。まさか、シスターズに短パン文化到来!?
縞パンが…いや、美琴と見分けが付かない事態になってしまう!?
「あ、アンタが短パン履くなんて、どういう心境の変化?」
バカなことを考えている間に、美琴が突っ込む。
「短パンですか?それはこれを着ているからです、とミサカは行動で示します」
やにわに立ち上がると、長袖のセーラー服を脱ぎ、スカートを脱ぎ…
あまりの展開に美琴と上条が口をぱくぱくさせて固まっている間に。
ミサカ一〇〇三三号は体操服+短パン姿に脱皮した。
「…それはウチの高校の体操服だけどさ、何考えてんだお前は…」
「この格好が、世の中の男性にはタマラナイものらしいので、とミサカはあなたに見せつけてみます」
「んなの見慣れとるわ! …ん、美琴?」
美琴がミサカ一〇〇三三号をじっと凝視している。
…身体のラインが明らかになった、ミサカ一〇〇三三号を。
上条アイが改めて検分する。
腰からのラインが、もう中学生のソレではない、見事なプロポーションになっていた。
同級生の美女たちと比べても、遜色ないどころか優っている。
しかし……
胸の成長が…体操服のゆるみを考えても…
「…美琴、落ち込んでいる、のか?」
美琴の顔に、縦線が入っている。
「ど、努力しなきゃ、そうなる、ってこと、ね…」
「おそらく、胸のことを考えておられると思いますが、無理な増強は」
「ミコトDXはもういいわよ!あーもう!」
上条はノーコメントを貫いた。
「そういえば、なんで1時間限定なんだ?」
話題を変えるため、上条は強引に話題を振る。
「このミサカは成長しすぎたのです。他のシスターズが成長し、肉体的な同期が取れるその日まで、
これから眠り続けるのです、とミサカは懇切丁寧に説明します」
「な…に?」
「成長促進技術の限界を調べる実験を行っているのです、とミサカは事情を説明します」
「ちょっと待て。寿命は…寿命をまた削ってるんじゃねえだろうなオイ!?」
「今回の実験は、寿命を優先課題としていますので、その辺は大丈夫です、とミサカは解説します。
寿命を無視すれば、数日で18歳は可能でしたが、とミサカは補足します」
確かに半年以上かけて18歳ならば、それほど無理はしていないだろうとは推測できるが…
「このミサカは、本来あなたに助けられなければ、次の日に死ぬ運命だったミサカです。
一〇〇三二号は生き残ったシスターズの象徴となるミサカ。必然的に実験体は次のミサカ、
すなわちこのミサカの役割となるのです、とミサカは被験体となった理由を述べます」
「アンタたち…まだ、実験なんて、やってる、の?」
美琴が震えながら問う。
「助けられた命を、出来る限り伸ばすための実験です、とミサカは告げます。
私たちが、進んで行っている実験ですので、お姉様がお気に病む事はございません、とミサカは心配を解消します」
「…そうか。まあ先生が見てるんだ。美琴、そう背負い込むな…お前は笑うのが努めなんだぞ。」
「うん…」
「今回の実験の目的は18歳になることではなく、逆にここからどれだけ『成長しないように』できるか、
睡眠による成長鈍化を試すのです、とミサカは目的を伝えます」
「そうか…俺たちが次に会うのは4,5年後ってことか。…んじゃあもう時間もあまりなさそうだし、」
上条は少し美琴を一瞥し、
「何かできることあるか?最初に言っとくけど、美琴が怒るような事はダメだけどな」
「ミサカの願いは…あなたにキスしてみたいです。
一〇〇三二号に行ったように、あなたの頬に、とミサカはお姉様の反応を気にしつつ願いを伝えます」
美琴は、一瞬固まったが、むんずと上条の腕を掴み、ミサカ一〇〇三三号の前に突き出した。
「お、おい、美琴?」
「後ろ向いてるから、どうぞ!」
「…改まるとスッゲー恥ずかしい話だなこれ……目つぶってるから、いつでも来い!」
「ありがとうございます、とミサカは心から感謝します。
行為をさせていただきましたら、ミサカはそのまま去ります。お姉様、またお会いできる日を楽しみにしております…」
上条は、暖かいものが頬に触れた後も、目を開けなかった。
ドアが開閉した音を確認して、初めて目を開け…主のいなくなった椅子を眺めた。
美琴が横からしがみついて来た。
上条はやさしく頭をなでると、肩を抱いてゆっくりと部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
「いま、妹達はどうしているんですか?」
ゲコ太先生の待機する部屋に戻った2人は雑談しつつ、そういえば、と他の妹達の状況を聞いた。
「あの子たちは、精神的ショックを受けていてね?リラックスカプセルの中にいるよ」
「…カプセル? あの、挨拶は可能ですか?」
「ジェスチャーで挨拶程度ならね?」
それでもいいから、と、案内するゲコ太先生についていく美琴。
上条は…そのカプセルルームの前で強く固辞した。想像通りのものなら、間違いなく不幸な目に会う…
数分後、美琴が足音荒く、真っ赤になって出てきた。
「アンタ…知ってたでしょ!」
「え、いや?その、…」
「いつ見た!あ、あの全裸姿を!」
「え、え~と、白井の見舞いの、時に…」
白井黒子が大怪我を負った時、御坂妹も見舞ったのだが…
あの時、御坂妹は、強化ガラスのカプセルに満たされた透明な液体の中で、ぷかぷか浮いていた。…全裸で。
「アンタは数ヵ月も前に、私のハダカを見てたってこと?」
「い、妹だろが。お前じゃねえ!」
「DNAレベルで一緒なの知ってて、ぬけぬけと…そ、それじゃ、もう大覇星祭の時には…」
「あの、美琴さん…?」
「あの薄着のランニング姿を、狼の目で見ていた、と…」
「たぶん、考えていることは、何一つ当たって無いと思われますが…」
「~~~~~!」
美琴は目に涙を浮かべて上条をボカボカと殴りだした!
「いてえっ!わ、悪かった、悪かったから落ち着いてくれ美琴!」
「~~~!」
病院で電撃を出さない理性は残っているようだが、結構本気で怒っているらしく、殴り続けている。
「君たち恋人なんだろ?裸なんていつも見ているんじゃないのかい?」
一部始終を見ていたゲコ太先生の突っ込みに、美琴の動きが止まる。
すかさず、上条は美琴の腕ごと抱きしめて、囁く。
「そ、そうそう!俺たち恋人なんだから。いつか、その、そういう日が来たら、そんな記憶も…な?」
「あ…う…そんなごまかし方……ずるい…」
美琴はうつむいてしまったが、うなじまで真っ赤だ。
「それにじっくり見てねえって。気にすんなとは言わないけど、まあ俺を信じて、な?」
「うん……ごめんね。すぐカッとしちゃうの、直さなきゃ…」
「お前はそれでいいんだよ。まあ不幸だーっ、って叫んじまうのが一番だぞ?」
美琴の肩を叩きつつ、そう言って上条は先生に会釈した。
仲よき事は美しき哉、だね?
ゲコ太先生は頷き、若い恋人たちにアテられながらも、優しい眼差しで見つめ続けていた――
fin.