とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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戸惑う美琴の放課後事情


「……はぁ」

 常盤台からの帰り道、放課後にクラブ活動といった用事のない御坂美琴はいつもの帰り道を一人で歩いていた。しかも、その足取りは重い。普段ならば、自分を慕う白井黒子や初春飾利と言った面々が傍にいるのだが、残念ながら本日はジャッジメントの業務のためその姿はなかった。
 しかし、足取りが重い理由はそれではない。先日の件が未だ尾を引いているのである。

「……なんで……なんであんな事言っちゃったんだろ……」

 美琴は先日の遊園地での出来事を思い出す。

『私がアンタの事好きだって言ったら信じる?』

 それはする予定がなかった筈の告白。恐らく、自分以外の人間が彼に想いを寄せていることが明らかになったがための焦りであり、美琴の中にある不明確な感情が生み出した結果。
 だから、その時のことを思い出すと美琴の足取りは重く、気分は沈んでしまう。

「……はあ…私ってバカだ……」

 何度目かになる後悔。そして、溜息。
 いくつ重ねようが進展がないのに、何度つこうが目に進めないのに、美琴はそこに逗まる以外の手段を持ち合わせていなかった。


      ********


「アナタは上条当麻のことが好きなの?」

 あの日、上条当麻とインデックスの二人を場所取りという名目で追いやり、3人で話し合いを持ったとき、胸の大きな少女――吹寄制理は開口一番、美琴にそう訊いてきた。

「……う、うん……ううん、違う」

 一瞬の戸惑い。今の自分の上条当麻への気持ちを誰かに聞かせた事はない。だから、第三者である彼女たちに言うのも気が引けたし、それに美琴を見つめる吹寄の迫力に飲み込まれそうになったため、生返事になりそうになった。だけど、美琴の心に生まれたのは『負けられない!』という想い。目の前にいる彼女達と対等以上に渡り合ってやると、正面から睨み返し、はっきりと自分の心を告げる。

「私は……私は上条当麻が好き!」

 そんな美琴の態度に吹寄はただ柔らかい笑顔を浮かべただけだった。

「そう。それは羨ましい事ね」

 そして、次に長い黒髪の少女――姫神に向き直る。

「姫神さんは……聞くまでもないわね。同じく上条の事を――」
「うん。好き」

 はっきりと言いきった。これに対して吹寄は苦笑いを浮かべる。知っていたこととはいえ、いや、それ以上に断言されてしまったのだから。

「貴女はどうなんですか?」

 今度は美琴が聞く番だった。先ほどの様子から察すれば、この吹寄と言う少女も上条当麻の事を……

「そうね。正直にいえば『わからない』かな」

 しかし、予想外な答えが返ってきた。

「……バカにしてるの?」

 今度は美琴が睨みつける番だった。自分は気持ちに正直に答えた。なのに、はぐらかすようなその回答に美琴の心に怒りが湧き上がる。好きなら好きと言えばいい。目の前の黒髪の少女のように。それを誤魔化すなんて信じられなかった。

「申し訳ない。バカにしているわけではないの。だけど、私には好きかどうかの判断が出来ない」

 その言葉に嘘は無い。だから吹寄はまっすぐに美琴を見つめる。

「でも、上条に遊園地に誘われて嬉しかったことは事実だし、そしてそのことに浮かれてた事も認めるわ。だけど、これが恋かどうかは私にはわからないのよ」

 先ほどまでと違って不安そうな表情。それを見て美琴は『ああ、昔の自分と同じなんだ』と理解する。
 あの日、病院を抜け出し誰かのために戦おうとしているアイツを見て、それを止める事が出来なかった自分に残された感情が恋だと気づくまではわからなかったあの日の自分と同じ。恋を恋として自覚できない不安定な気持ちを抱えた状態。本当にアイツは何人の女性を苦しめる気なんだろう。

「……それを恋って言うんだと思うけど」

 姫神がボソリと呟く。しかし、その呟きに美琴は目を見張る。それは自分の感情に戸惑った経験のある美琴にとって簡単に言える言葉ではない。
 ああ、この人は強いんだな、と美琴は思う。外見がしっかりしている吹寄は恋に迷い、儚げな雰囲気の姫神は恋に突き進む。なんと対照的な構図だろ。こんな人が敵になるんだと思うと美琴は不安と同時に楽しみを感じた。

「それで?私達3人で集まって何をするつもりだったんですか?」

 吹っ切れた表情で美琴が吹寄に問う。今更迷う事が馬鹿らしく思え、自分も負けたくないという美琴本来の気性が戻ってきていた。そう、負けない気持ちとそれを支える心の強さが美琴の武器なのだ。

「それが貴方の本性なのね。常盤台のエースさん」

 なんだか嬉しそうに吹寄は美琴に微笑んでいる。どうやら吹寄は美琴の正体に気付いていたらしい。だからと言ってそれに対して後に下がるような吹寄ではない。むしろそんな人間が全力で向かってきてくれる事が嬉しいのだろう。

「それで、何をするの?」

 姫神の表情は変わらないが、彼女もまた前に進むタイプなのだろう。全く動じる様子はない。

「多分、二人とも私と同じように上条の為にお弁当を作ってきたのでしょ?」

 ニヤリと笑う吹寄に対し、ズバリ当てられた二人は顔を真っ赤にする。

「アイツにこのまま振り回されるのは私の性にあわないから、こっちから攻めてあげましょう」

 どうやって?と美琴と姫神の頭上に?マークが浮かぶ。

「こちらがお弁当持って強気に出てやればアイツの事だ、勝手に自爆し、大慌てするだろうよ」

 と、なんだか嬉しそう答える吹寄。その態度でさえ幸せそうに見えるのは気のせいか。
 しかし、吹寄のその言葉通り、3人がお弁当を差しだし強気で迫った結果、上条当麻は混乱の極みになってしまい慌てるその姿を見て3人とも胸がすく思いだった。

 食事の後「上条当麻、私たちを戸惑わせた罰だ。私達4人それぞれのための時間を作れ」という吹寄の命令により、当麻は吹寄、姫神、インデックス、美琴の順でそれぞれの乗りたい乗り物にペアとなって乗る事になった。そこで告白するも自由だったのだが、吹寄も姫神も告白しなかったようだった。だから、美琴の番となった観覧車でも同じようにただ同じ時間を過ごすだけにするつもりだった。なのに……


      ********


「あんな事言うつもりじゃなかったのに……」

 自分の気持ちを吐露してしまった。他の二人はしなかったのに、自分だけが行ってしまった、まるで裏切りの気分だった。足取りが重くなるのも仕方がない事だろう。

「それに、結局……」

 観覧車の中で自分が口にした台詞に驚いて慌てて口をふさいだが、既に後の祭り。当麻は驚きの表情のまま固まっていた。

「………」
「……は、ははは……冗談よ。冗談に決まってるじゃない。なに驚いた顔してるのよ?…それとも何?美琴さんがアンタを好きだって本気で思ったの?…はは…そんなわけ……ある訳ないじゃない……」

 結局自分の気持ちを自分の言葉で押し潰してしまった。しかも、本心ではない言葉で。
 美琴と当麻を載せたゴンドラが一番下につくまで、美琴は一人喋り続けた。会話の内容なんか覚えていない。もしかしたら、支離滅裂な会話だったかもしれない。それほどに美琴は自分の行動に慌て、消し去りたかった。

「……私って最低だな……」

 その時の当麻の表情を美琴は見ていない。おそらく見ていたら、何も言えなくなっていただろうから。だから知らない――上条当麻がそんな美琴を辛そうな表情でい見ていた事を。

「……あれ、御坂さん?」

 そんな、この世に絶望したような悲壮感を漂わせた美琴を背後から呼び止める声があった。

「……どうすればいいのかな……」
「…御坂さん?」
「……私、もう駄目なのかな……」

 しかし、自分の迷いの中にいる美琴にはその声は届いていなかった。

「御坂さんっ!!」

 だから、迷わず少女は声を張り上げた。

「えっ!?…え?何?……佐天さん?」

 美琴は驚いて声のした方向に振り返る。そこにいたのは今の美琴とは正反対のように身体中から生きる活力を漲らせた黒髪の少女――佐天涙子がいた。

「ん?どうしたの佐天さん」

 美琴は悟られぬよう表情を作り、普段と同じ笑顔を佐天に向ける。

「むっ」

 しかし、佐天はそんな美琴の態度に納得いかないのか顔をしかめる。
 佐天にとって美琴は憧れてやまない超能力者(レベル5)、だから無能力者(レベル0)の自分には判らない悩みがある事など重々承知だ。しかも、それこそ能力がらみの悩みなら自分にはどうしようもない事は良く分かっている。だとしても、そんな自分にも出来る事がある、ほんの僅かでも美琴の力になれる事がある、と佐天は考えている。だから、佐天は少々強引な手段をとる事にした。

「御坂さん、ついてきて下さい!」
「え!?佐天さん、何処に!?」

 美琴の手を強引に取り、引っ張るように歩き出した。


      ********


「御坂さん、洗いざらい吐いてもらいますよ」

 佐天が連れてきたのはどこにでもあるチェーン店のコーヒーショップ。常盤台の学生が来るようなお店ではないが、リーズナブルさで佐天達一般学生には縁のあるお店だ。

「洗いざらいって、私何も隠し事なんてしてないわよ」

 美琴は佐天の前で笑顔を作ったまま崩そうとはしない。佐天もそれが判っているから追求を止めようとしなかった。

「そうですか。御坂さんがそうおっしゃるなら、そう信じたいところなんですが。あの時の質問をここでもう一度させて頂きますね」
「質問?」
「はい、質問です」

 美琴には佐天が何を言おうとしているのかわからなかった。だけど、真剣なその瞳に視線をそらす事が出来なかった。

「御坂さん。いま、あなたの目には何が見えてますか?」
「っ!?」

 その質問には覚えがあった。<乱雑開放(ポルターガイスト)事件>でテレスティーナ・木原・ライフラインに苦しめられ、自分一人で全てを解決しようと焦っていたときに言われた言葉だった。

「私が御坂さんの力になれるとか、役に立つとは決して言えません。でも、御坂さんが苦しんでいる事は私にだってわかるんです。もし、話すことで少しでもその苦しみを軽くする事が出来るなら、聞くだけしかできない私に話してもらえないですか?」

 ああまただ――美琴は何度目の前の少女に思い知らされるのだろう。自分は一人じゃないと。
 確かに、当麻の事は話し難い。でも、こんな真摯な瞳を向けてくる友達が信用できないほど自分は人を信じれないと思いたくなかった。

「黒子には秘密にしてね」

 そう言って、美琴はその笑みを崩し、その眼に哀しみを湛えた、一人でいたときの表情が浮かびあがる。そして、ゆっくりとあの日の出来事を話し始めた。

「御坂さんは本当にその人の事が好きなんですね」

 話を聞き終わった佐天は優しい微笑みを浮かべて美琴を見つめた。

「……うん」

 恥ずかしげに、でもしっかりと美琴は頷く。親友に嘘はつきたくないから。

「ねえ御坂さん、誤魔化したのは本当はその人たちに遠慮したって訳じゃないんじゃないですか?」
「え?」
「これは私の予想、というか思いつきでしかないんですけど、御坂さん、その人が自分の事をどう思ってるか知るのが怖くなっちゃったんじゃないんですか?」

 それは予想外な言葉だった。

「……私がアイツの事を知りたくない?」

 何か自分の存在を否定されたかのような言葉だった。自分でも血の気が引くのが解る。

「ち、違います!」

 そんな美琴の様子に慌てて佐天は否定の言葉を重ねる。

「御坂さんはその上条当麻さんのことを知りたいって思ってるのは確かなんですよ。でも、これは私にも思い当たる事ですけど、人を好きになった時、相手が自分の事をどう思ってるのか知りたいって思うと同時に、相手の気持ちが自分と異なっている可能性を考えてしまって、知りたくないとも思ってしまうんですよ」
「………」
「だから、その誤魔化した時の御坂さんの心情って恐らくその知りたくないって気持ちが強くなっちゃったんじゃないかと思うんですよ」

 自分はなんて弱いんだろう。つくづく美琴は思い知らされる。
 能力レベルは"自分だけの現実(パーソナルリアリティ)"の確立の差だと人は言う。だけど、そんなものでは自分の気持ちさえ判らないではないか。

「……で、でもアイツは何も言ってくれなかった。私に一言も言葉をかけてくれなかった」

 そう、何よりも悲しかったのはその事。自分で誤魔化したこととはいえ、何か言ってほしかった。例えそれが美琴の我が儘だとしても。

「恐らく、上条さんも戸惑ったんだと思いますよ。何を言うべきなのか。だから、御坂さんは今度こそ上条さんに自分の気持ちをぶつけるべきだと思いますよ」
「で、でも!?」

 美琴は焦る。そう、さっき佐天が言った通りだ。自分はアイツの気持ちを知るのを怖がっている。アイツがもし自分の事を何とも思ってなかったとしたら……

「御坂さん、真実を知るのは怖いと思いますよ。でも、今のままでいいんですか?」
「そ、それは……」
「ほら、良いとは思ってないじゃないですか。だったら、もうアタックするしかないと思いますよ」

 佐天は少し意地悪な表情を浮かべて、台詞を続けた。

「それとも、上条さんはそんな御坂さんの気持ちも考えずいい加減なことしかできないような男性なんですか?」
「そんなことない!アイツはそんな奴じゃない!どんな事だって真面目に正面から受け止めてくれる!!」

 美琴は真っ赤な顔で反論する。そして、にやけた表情の佐天を見て"言わされた"事を認識した。

「……ふ、ふにゃぁ」
「うわぁ、御坂さん!止めて下さい!こんなところで漏電は駄目ですよ!!」

 流石に幻想殺しの能力を持たない少女には美琴の漏電はどうしようもないのだが、それでも佐天の表情からは微笑みが消えなかった。憧れる「レベル5」の少女が素直に自分に相談してくれた事。それがとてつもなく嬉しかったから。

 そして、心から溢れだす想いを止められない事は自覚した少女は決意する。

――今度こそ私の想いを伝えてみせる!


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