人体解剖学概説


A.意義と分類


①解剖学の意義


 自然界のすべての生物は,体外の物質を取り入れ,代謝活動を行い,不必要な老廃物を体外に排泄している.さらに環境の変化に対応したり,新しい子孫を生むことをする.このような生命活動の仕組み,とくにヒトの生命活動の仕組みは,二つの学問的方法により解明されてきた.その一つは人体を含む生物の形態と構造を調べる解剖学であり,もう一つは生物の働き,すなわち機能を調べる生理学と生化学である.
 人体の解剖が始まったのは,西洋ではギリシア時代であるといわれる.その後,動物の解剖は行うが人体の解剖は行えないという状況が続いた.13世紀になると人体解剖が許されるようになり,稚拙ながら人体解剖図が登場する.レオナルド・ダヴインチ(1452~1519)は,はじめて遠近法に基づく正確な解剖図を措いた.近代解剖学の始まりは,アンドレアス・ヴェサリウスの『人体の構造についての七つの書』である.この大きな書物は,みごとな解剖図とラテン語の本文からなり,1543年に出版されている.それ以降,人体解剖学は医学の中で広く教育・研究されるようになった.
 わが国にとって,初の官許による人体解剖は,1754年に京都の刑場で行われた.これに参加した山脇東洋は,その結果を『蔵志』として出版した.ついで,1774年に杉田玄白らにより『解体新書』が公刊される.これは,オランダの解剖学書『ターヘル・アナトミア』の翻訳であった.『解体新書』に記されている術語のなかには,現在の解剖学用語に使われているもの(たとえば神経,軟骨など)が少なくない.明治になると解剖学は医学の正規課目となり,急速に発展した.

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