"オベルト"

対訳




あらすじ

  • よほどのオペラファンでもないとこのオペラ存在すらご存じないと思いますし、ストーリーを紹介されている他のサイトも多くはないようなので簡単にあらすじを御紹介します。
  • 時は13世紀、ヴェニス近郊のパドヴァやヴェローナの地を支配したエッツェリーノ・ダ・ロマーノ(オペラには登場せず)は、自らの妹クニーツァ(アルト)をサリングエッラ伯爵リッカルド(テノール)と結婚させようとします。その婚礼の場にやってきたのはレオノーラ(ソプラノ)、彼女はかつてリッカルドに言い寄られ、そしてその後捨てられた復讐の機会を窺っているのでした。そこに現れたのが彼女の父のサン・ボニファーチョ伯爵オベルト(バス/バリトン)、彼はヴェローナの領主でしたがエッツェリーノに敗れて故国を追われています。が、娘が不行跡をしでかした上に、復讐にエッツェリーノの館に向かったと聞いていてもたってもいられずに戻ってきたのでした。彼らは大胆にもクニーツァの前に進み出てリッカルドの不実な行為を訴えます。レオノーラの苦悩とオベルトの身を捨てた熱情に心動かされ、真相を明かすことを約束したクニーツァは婚礼の参列者の前でリッカルドにレオノーラを引き合わますが、「レオノーラに裏切られたのだ」としゃあしゃあと嘘をつくリッカルドに隠れていたオベルトがたまらず飛び出してきて会場は大騒ぎになります(第1幕)
  • クニーツァはリッカルドとの結婚をあきらめ、レオノーラのもとに彼を返そうとします。また追放されていたオベルトの許しも兄に訴えようとするのですが、気持ちがおさまらないオベルトはリッカルドに決闘を申し入れます。老人に剣はふるえないと断っていたリッカルドもたびかさなる侮辱にとうとうキレて彼らは決闘することになったのでした。決闘の場面は直接描かれることなく、騎士たちのコーラスで断片が語られるのですが、リッカルドはオベルトを倒し、そして重ねてしまった罪の重さに耐えかねてその場を逃げ出します。そして不幸にもその決闘と父の死を目撃してしまったレオノーラが現れて、苦悩を歌い、修道院に入ることを告白して幕となります(第2幕)

訳者より

  • 1839年ミラノ・スカラ座で初演された、ヴェルディ最初のオペラ作品です。シンプルな2幕構成で、スタイルとしてはドニゼッティの作品そのままという感じですが、音楽は随所にのちのヴェルディの傑作を彷彿とさせる響きが顔をのぞかせてなかなか聴きごたえがあります。ヴェルディ作品の中ではリクエストをもっともたくさん頂いておりましたので(2013年6月末時点)、テキストの分量もそれほど多くないことからこの生誕200年に訳してみることとしました。なお同数票の「運命の力」も本年中にいずれ取り上げる予定です。
  • 分量が多くないといいながらこの台本、つい先ごろまであの見事な「ファルスタッフ」を訳していたからでしょうか、紋切り型の台詞と回りくどい言い回しに辟易して訳していても楽しくないことおびたたしく、対訳完成にけっこうな時間がかかってしまいました。まあこれは台本作者が悪いのではなく、当時のオペラのスタイルがそういうもので、その型にはまった作品しか作ることができなかったということもあるのでしょう。歌手の声の質ごとに役柄のパターンが決まっていて、その役の歌うべきアリアのスタイルも枠から外れない、毎回同じように桜吹雪を見せる時代劇遠山の金さんのようにワンパターンの中でストーリーを組み立てるのが台本作者の腕の見せ所といった感じがします。もっとも荒唐無稽な展開の多い初期ヴェルディの作品の中ではこの作品は比較的辻褄の合ったまともなお話、逆にそれだけ平凡になってしまった感もありますが。

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@ 藤井宏行

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最終更新:2013年07月06日 22:00