"ドン・カルロス"

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訳者より

  • ご存じの通り、ヴェルディの「ドン・カルロス(イタリア語ではドン・カルロ)」は多様な版が並立し、どれがどれやら訳のわからない状態になっております。パッパーノがパリのシャトレ座で入れたフランス語の版を聴きながら、この作品はやはりフランス語版を訳そうかなと、ここのテンプレートを拝見したところ、いきなり冒頭から全然違っているのに面喰わされてしまいました。実は第1幕の冒頭はドン・カルロが登場する狩人の合唱のところまでカットされるのが普通であることを知ったのはあとのこと。仕方ないと諦めてイタリア語の5幕版の方を見ましたらこちらも私の手持ちのCDと全然違うので、結局どうしようか途方に暮れていたところ、パッパーノと同じフランス語の版のアバド・スカラ座の版が現行の版ではカットされていたり改変されていたりしている部分をかなりたくさん補遺の形で収録してくれているのでようやく状況が飲み込めて参りました。
  • どうもオペ対にあるこのフランス語のテキスト、かなり初演版に忠実なもののようなのです。実際にこの形で上演されることはまずないようなので(パッパーノの演奏した版はしかし一部の大幅なカットを除くとここのテキストにかなり一致してはおりますが。アバドの演奏したものはかなり違っています)、訳しても鑑賞のための実用には耐え得ないのですけれども、やはり私にとっては非常に興味深いところなので、このテキストを翻訳させて頂くことにしました。
  • なお、CDの対訳の代わりにこのサイトをご活用頂いている方のためには、イタリア語5幕版のとあるCDのリブレット(と思われる)から引っ張ってきたテキストを訳したものを別途アップすることにしています。こちらはおそらく録音が一番多いと思われる1886年のモデナ稿(ジュリーニハイティンクショルティなどの録音)なのでまあそこそこお役には立つかと思います。

現行版との違い

  • さて、膨大なこのフランス語、主な現行版との違いは次のようなところです(テキストの違いのみですので、音楽まで広げると更に差異は大きいかと思います)
  • 第1幕
    • 冒頭部分でスペインとの戦争に苦しむフランスの民衆たちの姿が描写されています。そこにやってきた王女エリザベートは彼らの苦しみに心から同情します : この幕の後半で、カルロスと結婚できる筈が彼の父のフィリップ王に嫁がされる羽目となったエリザベートが、戦争を終わらせるという大義のためにそれを止むなく受け入れる重要な伏線となっていますので、レヴァイン・メトロポリタン歌劇場(イタリア語)のようにこの部分を復活させて上演するケースも良くあります
  • 第2幕
    • 最後のフィリップ王とロドリーグの会話はかなり違っています。改訂後の方が緊迫感があって良いかも
  • 第3幕
    • これも冒頭部分 仮面舞踏会にうんざりしたエリザベートは、自分の衣装をエボリに着せて身代わりを頼みます。エボリはその姿で恋するカルロスを誘惑しようと心に決めるのでした、第2幕で彼女が歌う「ヴェールの歌」の人違いのシチュエーションがここで彼女の上にも現実に起ころうとしているのだぞ、ということがそのメロディの引用で暗示されます。これもすぐあとのカルロスがエボリを愛するエリザベートと間違えてたいへんなことになるシーンの伏線としてとても重要なので、いくつかの録音ではここをカットしていません。もっとも完全に再現すると長くなりますので、合唱の部分などを切り詰めた短縮版で再現することが多いようです。フランス語のパッパーノのものもそれを採用しています。
    • そのあとのバレエはまずカットされるでしょうか。このオペ対掲載のテキストはアバド盤のライナーノートによれば、初演前に書かれたプロット段階のもののようで、パリ初演の際のバレエのト書きとはかなり違っているようです。初演時のバレエの内容をご確認されたい方はこの録音のライナーノートを探してみられてください
  • 第4幕
    • ロドリーグが暗殺された後、王が出て来てからのカルロスとのやり取り、およびその後の暴動のシーンはかなり冗長です。

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@ 藤井宏行


最終更新:2013年08月16日 22:45