三節 光を求めて28

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リディアの手の中には、確かなぬくもりがあった。  哀しくて哀しくて仕方なかった自分のために、アンナが最後の最後に残してくれた、微かな、されど確かな感触。  あの優しいひとは、ギルバートを愛して、ギルバートのために死んだのだから。  ギルバートは、ちゃんとあのひとために、あのひとの愛に応えなきゃならないはずだとリディアは思う。 「そうさ……君の言うとおり、僕は弱虫さ! だからずっとこうしてアンナのそばにいるんだ!」  しかし幼い少女にすらこう言われたことがさらにギルバートを自棄にしてしまったのか、もう何もかもどうでもいいんだと彼は訴える。 「な……、あたしだって……!!」  怒りに言葉を詰まらせながら、それでも反論しようとするリディア。しかしそれよりも先に、ふたりのやりとりを聞いていたセシルがギルバートの頬を殴りつけていた。  リディアが目を丸くしてセシルをみる。セシルはギルバートの胸ぐらをつかんで自分の正面に彼の体を向けさせた。 「悲しい思いをしているのは君ひとりだけじゃないんだぞ! 何よりそんなことをしていて、アンナが喜ぶと思っているのか!!」  ギルバートはうなだれる。この暗黒騎士の言うことは正論だ。全くの正論だ。だからと言って、これから自分はなにを為せばいいというのだろう?  そんな彼に、セシルは続けた。 「助けてほしい人がいるんだ」 「助ける? 僕が?」 「光熱病に倒れている仲間を助けるために、君の力を貸してほしい」 「光熱病……、砂漠の光だね」 「そうだ、ローザを助けるために、……僕の大事な人を救うために、どうしても君の力が必要なんだ……頼む!」  大事な人を、救う。そんなセシルの明確な願いを前に、ギルバートの瞳にしっかりとした意志の光が灯る。  自分には、もう何もないとギルバートは思う。だけど、そんな考えは間違っていると知った。  アンナは自身の生命と引き替えに、僕という大事な人を救ってくれたのだ。アンナだけではない。父母も、兵士たちも、みんな自分を守るために死んでいった。  そしてギルバートはここに生きて、居る。

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