五節 忠誠と野心47

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「テラ、ヤン」 「気づいていたか」 そう言って、物陰からテラとヤンが姿を現した。 「いいや、今気づいたんだ。でも、もう少しだけ早く出てきてくれると嬉しかったかな……」 「本来ならばすぐさま助太刀にまいりたかったのですが……」 「いいんだよ、それより……この魔法は?」 謝るヤンにそう言うと、テラの方に向き直る。 「ああ……プロテスの魔法だ」 プロテス。対象者の身に付けた防具に特殊な加工を一時的に施し、相手の攻撃に対抗する魔法。 防具を強化するという性質上、戦前で重装備する者程、効果が増す訳である。 まさしくセシルにうってつけの魔法である。 「お前が攻撃を受ける直前にだな……遠距離だった上に、急な出来事であったから間一髪であったが」 自らの腕がまだ衰えてはいない事が嬉しかったのか、少しばかり、自賛に満ちた声であった。 「またもや数が増えたか……」 話し込む三人の後方で、千切られた腕の再生を終えたベイガンが言った。 「だが、いくら人数を揃えようとも、私を倒すことなど……」 「それはどうかな」 相も変わらず自信に満ち足りたベイガンの言葉を遮ったのは、更に自信に満ちた短い声だった。 「どういう事だ……」 可笑しかったのか、少しの微笑を交え、ベイガンが声の主――テラに聞き返す。 「実はな……先程から、お前さんとセシルの一戦を少しばかり陰から観察させてもらったんだ。 到着が遅れたのはそういった事情があってな……」 先程、ヤンが謝っていたのはそういう事か。駆けつけようとしたところをテラが引き留めたのだろう。 その情景を思い浮かべ、セシルは納得とやや不謹慎な可笑しさを感じた。 だが……何故? 「それはお前さんのある特徴に気づいたからだ……鉄壁だと思っている防御。それには大きな穴があるのだ」 そんなセシルを余所にテラは更に続ける。少しずれた眼鏡の縁を押さえ、不敵に呟く様はいつものテラとは違う雰囲気がある。 「ほう……見れば魔導士のようだがな……そんな者に私が倒せるとでも……」 その自信の根拠。おそらくはリフレク。あれではテラも…… 「そんなお前さんに、一つ忠告だ。どんなに優れた魔法にもな、必ず穴がある。それを生かすも、殺すも、使う もの次第……」 ベイガンの言葉を無視するかのように言う。 「な……!」 そこまで続いた言葉にさすがのベイガンも唯の虚勢で済ます事が出来なくなったのか、少し動揺の語気が 混じる。 「さて……どんな手を……」 「ヤン、セシル。少しあいつの気をひいてくれ……」 その指示に無言で頷くヤン。セシルも同じく頷く。 現状ではテラに任せるのが最良の判断だ。セシルはそう判断した。おそらくはヤンも同じだろう。 その二人を見送った後、テラは少し後ずさる。

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