変わる世界 交錯する言葉21

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駆ける足音と共にセシルの脳裏を巡るものはただ一つしかない。 過去、現在、そして未来――それもそう遠くないもの。 その内容には思い出したくもない程の苦しい時もあったし、いつまでも心の内に留めて おきたい位の至福の瞬間もあった。 どれもが大切な時間。どれもが消せない時間……どれもが戻せない時間。 そして…反芻される全ての思い出は振り返っても振り返っても、何処にでも彼はいた。 そう――「彼女」も―― いつ間にか追尾しているはずのガードロボットの猛攻は止んでいた。 どうやら「彼」の目的からしても此処でセシルを始末する事は「予定」にはないのだろう。 見れば、随分と遠くまで来たらしい。 迷路のような通路を見渡せども、テラ達の姿は何所にもない。 「無事であればいいが……」 思わず一人ごちた。セシルにとってテラ達は大切な仲間であり、常に頼りにしてきた存在だ。 なので、セシル一人が抜けた所で、たとえ別の追手がやってきたとしても大丈夫であろう。 前衛要因を取って見てもシドとヤンがいる。みすみすやられてしまう訳がないだろう。 シドの強面ながら陽気な笑顔が思い出され、思わず微笑が零れおちる。 「だけど……」 ヤンやシドについては安心はしているし、信頼もしている。 だがテラの事だけは気がかりだった。 別にテラだけを信頼していないとかそういう事ではない。ただ、テラが戦いに身を投じる理由――言うなれば復讐だ。 その為になら今のテラは何でもするであろう。たとえ自分の身を案じない捨て身の行動であろうと…… 目的や自分の確立の為には手段を問わない。それはまるで――昔<暗黒騎士>の自分でもあり、ゴルベーザに操られた ベイガンでもあり、今の「彼」もそうなのだろうか? ミシディアの長老も今のテラを危惧していた。ミシディアを発つ際にも、旧友としての心配と共に念を押されていた。 誰にだって黒き感情はあるだろう。時にはそれが増幅し、止められなくなる時もあるだろう。 だけど……それを抑える事が出来なくなった時、人は自らの意識すらも分らなくなり、あらぬ方向へと闇を走らせるのかも しれない。渦巻く悪意はやがて、周囲の似た意識と同調し次々に勢力を増していく…… 壮言大語すぎるかもしれない……曲がりなりにも試練に打ち勝ち、パラディンとしての道を開いた自分にならばねじ曲がる 感情を正す事が出来るのか? それがパラディンになりしものの使命なのかもしれない。 「今はあの二人にまかせるしかない……」 頼んだぞ…… セシルは年配の仲間二人に心で懇願すると前を向いた。 「今はこの迷宮を抜け出すしかない」 ゾットの複雑怪奇な道筋の中でも、セシルの心は迷う事はなかった。 ゴールはもう近い。いつから始まったのかわからない迷宮はもう終わる。 だけどここは旅の終わりでない――始まりなのだ。 セシルの足は迷路の様な道筋を辿った先、一つの小部屋へと続く機械扉の前で止まった。 扉の前に立つと、程無くして機械的な音をたてつつ扉が開いた。 セシルは躊躇せずに足を踏みいれた後、すぐに口を開いた。 「カイン」 そして……「彼」――友の名を呼んだ。 「久し振りだな……」 「彼」――カインの返事は返ってくるのには、それから一寸の暇も無かった。

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