変わる世界 交錯する言葉23

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聖域――それは彼女にとって唯一無地の存在であった。 それは誰にも汚させてはならない。親しい仲間であってもだ。 その時がくれば、彼女の相手を見る目は「好意」から「憎しみ」に変わるであろう。 事実、彼女はその聖域を崩さぬように常に気を払っていた。親や仲間達との付き合いも それだけにしても、ひょっとすると上辺を繕っていたのかもしれない―おそらくそうであろう。 あらゆるものを犠牲にして、あらゆるものを捨てて彼女は聖域を死守してきた……つもりだった。 崩壊は意外なところからやってきた。 セシル――カイン 彼女の聖域を構成するのに於いて欠かす事の出来ない二者――それは友人の域を超えた親友であり 誰を差し置いてでも優先するべき二人。勿論自分を差し置いてでもだ。 今まで彼女は自分の気持ちすらひた隠しにしてきたように振舞っていた。今思えば、嘘を吐くのが 下手だと呆れざるを自嘲したい気持ちであるが、少なくとも過去の自分はそうしてきたつもりだ。 とにかく彼女の聖域と呼べる理想郷の中にはセシルとカインが重要なファクターとなっている。 決して自分の気持ちだけでは維持する事のできない空間であったのだ。其処に介在する他者二人。 他の皆は拒絶して追い払っていても、<彼ら>だけの存在はどうしてもあってはならないのだ。 自分は薄々感づいていたのだ。一人では成り立たない場所を一人で維持しようとした矛盾に。 誰でもない自分を変わらせない事は出来ても、他人の変化を止める事などできるはずがない。 彼女の矛盾だらけの理想郷は誰からも介入されることなく、自ら崩壊していったのだ。 自壊する聖域を止めることは既に彼女には到底不可能であった。 聖域が崩れる際、彼女は喚くことしか出来なかった……その瞬間、彼女にとって世界の全てがどうでも よくなった。そう自分の身がどうなろうと構うことはなかった。

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