SubStory 1 継承者の出立1

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ギルバートの言に従い外へ向かう途中、セシルたちは無残に踏みにじられた城の様子を再び見ることとなった。 壁や天井を彩る飾りタイルは砕け落ち、中庭の優美な噴水は悪臭を放つ溜池と化し──そして一面に広がる、人の肉の焼ける臭い。 その蛮行に旧知の者が加わっていた点を差し引いても、充分に胸の悪くなる光景だった。 まして幼い子供を連れて長居をすべき場所ではない。足早に通り抜けようとするセシルの腕を、当のリディアが後ろに引いた。 「ねえあそこ、さっき動いたみたい」 少女が指し示す先に意識を凝らすと、崩れた柱と壁の陰に、何者かの気配がある。瓦礫を除けると、下働きらしい少年が肩を押さえ息を殺していた。体を挟まれ身動きが出来ないようだ。そのおかげで、逆に難を逃れたのだろう。 ひどく怯えた様子の少年にうなずき、セシルは残る瓦礫に手をかけた。 「まってて、今なおしてあげる!」 全身に痣を作った少年を見て、リディアも習ったばかりの回復魔法を唱え始めた。魔道士の素質を見出したテラが、彼女に教えを授けたのだ。 ブリザドやサンダーといった初歩の攻撃魔法まで、短い道中の間にリディアは身につけてしまった。少女の才能もさることながら、師である賢者の力量には感嘆するほかない。 「……ケアル!」 瓦礫をほぼ取り去ると同時に正しい呪文が完成し、リディアの手に淡い光が生まれた。緑色を帯びた粒子となって少年の体に吸い込まれ、傷を癒す。 「だいじょうぶ? もう痛くない?」 「……あ…………」 「えーっと、魔法、ちゃんとかかったよね?」 「あ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 自由になった少年は、突然悲鳴をあげ、身を乗り出してきたリディアを突き飛ばした。とっさに支え事無きを得たが、その間に少年は城の奥へ走り去ってしまう。 そして。 「…………………。  コラ~~~っ! なにすんのよっ!!」 しばし呆然とした後、親切を仇で返されたリディアが少年を追って駆け出す。引っかかるものを感じながらも、セシルもまた子供たちに続いて、再び城の奥へと向かった。

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