罪の在処14

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「ゴルベーザ。これまでよ」 背中越しから声が一つ聞こえる。 「いや、ゴルベーザの<意志>よ……」 その声には聞き覚えがあった。否、完全に同じではない。だが聞いた事のあるものだ。 振り返る事はしなかったがそれは間違いない。 「<本体>でない貴方に用はないわ。さっさと消えなさい」 硬直するセシルを追い抜きゴルベーザの前へと立ちはだかる声の主。 寸分先を見渡す事も容易でないその場所でも彼女を見間違う事は無かった。 エメラルドグリーンの髪は色はそのままではあるが、肩越しの部分まで伸びている。 小さかった背丈は充分に伸び、前に立たれると頼もしさを感じた。とはいえ男であるセシルの身長には到底達してはいないのだが。 「くっ……だがクリスタルだけでも」 ゴルベーザはよろめいていた。先程の霧の一撃は黒龍だけでなく彼にも相当な聞いたのであろう。 やがてゴルベーザは黒龍と同じく煙へと姿を変える。だがその煙は拡散せずに一つの場所へと集まっていく。 「いただいていくぞ」 微かな声と共にクリスタルを包んだ黒い煙はその場で急に薄くなり、やがては消えた。クリスタルと共に。 ゴルベーザに止めを刺さなくて良かったのか? 結局クリスタルを奪われてしまった。 いつもならばそう思っていたところだろう。 だが今は目の前にいる人物に対して釘付けになる他は無かった。 「逃したか」 その人物――彼女が少しだけ上を見上げてそういった。 「まあいいか。どうせ全部揃わないと意味がないんだし。<本体>が弱っている今の内ならこっちにも充分打って出る手はある」 自分の記憶とはかけ離れた容姿に声色。だが、喋りの片鱗からあの頃の無邪気さを察する事ができるような気がした。 彼女は間違いなく―― 「……もう大丈夫だよ」 突如彼女が――今まで背を見せていただけの彼女がこちらへと振り返った。 髪と同じ色の瞳と目があった時には既に驚きは無かった。ただ確信が現実となっただけで。 「あっ! 心配しないでヤン達は大丈夫。最初に霧を張った時点で私が牙の方を抜いておいたし。そもそも黒龍がいなくなったし」 思った反応を得られなかったのだろうか。それとも黙り込んで自分を見るセシルが無愛想に感じたのか。リディアは明るい声で明るい話題を降った。 「だからみんなの事は心配しないで……しなくていいんだよ」 「リディア……」 セシルは静かに記憶の中にある<彼女>の名前を呼んだ。 「そうだよセシル」 別にセシルは無愛想にしていたのではない。驚きのあまりになんの反応を返す事が出来無かったわけでもない。 ただ、心の何処かで諦めていた確信がこうして現実になった事が嬉しかったのだ。夢でも幻でも無い。彼女は確かに、今この場所に存在している。 「私だよリディアだよ」 エメラルドグリーンの瞳から透明な粒が流れ落ちる。 「もっと驚くと思ってたのに……ちょっと悔しいよ」 冗談めかして笑いながら、リディアは頬を伝わる涙を拭いた。 「正直、拒絶されるかもって怖い気持ちもあったんだよ」 どんな姿になろうがリディアはリディアだ。否定する箇所など見つからない。 「おかえり」 ただ嬉しさだけが心にあった。言葉はそれだけで充分だった。 「ただいまセシル。十年待ったよ」 どうしてこうなったのか? 彼女の言葉一つ一つの意味も完全に把握してはいなかった。 だが、今この瞬間に於いてはそのような事は全て置き去りにして、この嬉しみと喜びを彼女と分かち合いたかった。
「ゴルベーザ。これまでよ」 背中越しから声が一つ聞こえる。 「いや、ゴルベーザの<意志>よ……」 その声には聞き覚えがあった。否、完全に同じではない。だが聞いた事のあるものだ。 振り返る事はしなかったがそれは間違いない。 「<本体>でない貴方に用はないわ。さっさと消えなさい」 硬直するセシルを追い抜きゴルベーザの前へと立ちはだかる声の主。 寸分先を見渡す事も容易でないその場所でも彼女を見間違う事は無かった。 エメラルドグリーンの髪は色はそのままではあるが、肩越しの部分まで伸びている。 小さかった背丈は充分に伸び、前に立たれると頼もしさを感じた。とはいえ男であるセシルの身長には到底達してはいないのだが。 「くっ……だがクリスタルだけでも」 ゴルベーザはよろめいていた。先程の霧の一撃は黒龍だけでなく彼にも相当な聞いたのであろう。 やがてゴルベーザは黒龍と同じく煙へと姿を変える。だがその煙は拡散せずに一つの場所へと集まっていく。 「いただいていくぞ」 微かな声と共にクリスタルを包んだ黒い煙はその場で急に薄くなり、やがては消えた。クリスタルと共に。 ゴルベーザに止めを刺さなくて良かったのか? 結局クリスタルを奪われてしまった。 いつもならばそう思っていたところだろう。 だが今は目の前にいる人物に対して釘付けになる他は無かった。 「逃したか」 その人物――彼女が少しだけ上を見上げてそういった。 「まあいいか。どうせ全部揃わないと意味がないんだし。<本体>が弱っている今の内ならこっちにも充分打って出る手はある」 自分の記憶とはかけ離れた容姿に声色。だが、喋りの片鱗からあの頃の無邪気さを察する事ができるような気がした。 彼女は間違いなく―― 「……もう大丈夫だよ」 突如彼女が――今まで背を見せていただけの彼女がこちらへと振り返った。 髪と同じ色の瞳と目があった時には既に驚きは無かった。ただ確信が現実となっただけで。 「あっ! 心配しないでヤン達は大丈夫。最初に霧を張った時点で私が牙の方を抜いておいたし。そもそも黒龍がいなくなったし」 思った反応を得られなかったのだろうか。それとも黙り込んで自分を見るセシルが無愛想に感じたのか。リディアは明るい声で明るい話題を降った。 「だからみんなの事は心配しないで……しなくていいんだよ」 「リディア……」 セシルは静かに記憶の中にある<彼女>の名前を呼んだ。 「そうだよセシル」 別にセシルは無愛想にしていたのではない。驚きのあまりになんの反応を返す事が出来無かったわけでもない。 ただ、心の何処かで諦めていた確信がこうして現実になった事が嬉しかったのだ。夢でも幻でも無い。彼女は確かに、今この場所に存在している。 「私だよリディアだよ」 エメラルドグリーンの瞳から透明な粒が流れ落ちる。 「もっと驚くと思ってたのに……ちょっと悔しいよ」 冗談めかして笑いながら、リディアは頬を伝わる涙を拭いた。 「正直、拒絶されるかもって怖い気持ちもあったんだよ」 どんな姿になろうがリディアはリディアだ。否定する箇所など見つからない。 「おかえり」 ただ嬉しさだけが心にあった。言葉はそれだけで充分だった。 「ただいまセシル。十年待ったよ」 どうしてこうなったのか? 彼女の言葉一つ一つの意味も完全に把握してはいなかった。 だが、今この瞬間に於いてはそのような事は全て置き去りにして、この嬉しみと喜びを彼女と分かち合いたかった。 -[[罪の在処15]]

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