去りゆくもの 残されるもの20

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「ええいっ! 皆、落ち着かんかい!!」 脱出するという結論に達したものの、いきなりの襲撃という状況に、この大人数が遭遇したのだ。誰もが冷静になる事など 到底無理な話であった。 ましてや今、この集合場所に待機しているのは飛空艇を動かす為に搭乗員や運送部隊、シドの連れてきた技師達もいるのだ。 普段戦場などの前線に赴かない者達が突然と敵の攻撃の真っただ中に放り込まれたのだ。さぞかし恐ろしい事であろう。 先程までの穏やかな雰囲気とは一転し混乱と悲鳴が交わる場所と化していた。 「お前も落ち着くのじゃ!!!」 シドが近くで震える若者を捕まえて、怒鳴り声を鳴らす。 「ですが……」 その若者は先ほどリディアを泣かせて謝っていた若者であった。良く見ると二つ角のついたドワーフの兜をしているが 目深に見えるその顔はセシルと同じ地上人のものであった。 「それでも儂の弟子を名乗る者か!!」 「すいません……」 どうやらシドが連れてきた技師のようであった。 「船の操縦はお前に任せる出来るか?」 「え?」 叱られて小さくなっていた若者が今度はきょとんとした表情になる。 無理もないだろういきなり飛空挺を任されたのだから。 「どういう意味ですか?」 それはセシルも気になった。何故シド自身が動かさないのか。 「皆っ! 落ち着け!! 落ち着くのだ!!」 考える間もな、いきなり大きな声でガードロボットの方向へと走りだした。 シドの予想外の行動に段々と混乱が静まり返っていく。 「早く飛空挺へと逃げるのだ。ここは……」 その先は聞かなくてもわかった。 「ほれ急がんかい!!」 混乱する周囲を飛空挺へと誘導する当のシド本人もその先の言葉を出すことを拒んでいた。 口に出すのが怖いからだろうか? 最も彼の性分上、人並みの恐怖を感じる事などないように思える。 ならばこう言った方が正しいだろう。 言葉にしてしまえば決死の覚悟が揺らいでしまう―― シドの性格は熟知していた。長い付き合いだから当然だ。一度火がつけば止まらない、誰にも止めることは出来ない。 直接目にしてはいないが自分を追ってバロンを出たローザを助けた時もこうであったのだろう。 「シド……なんでなの? 何故あなたまでが? また私達を助けるために……」 「急ぐか……」 ローザもカインもセシルと同じだ。彼を知っているから止めることが出来ない。だからそれぞれが想いを口にするが、決して シドに向けはしない。 「やめて――!! おじちゃん」 唯一リディアが出来上がりつつある流れを逆流しようとする。しかしそんな少女の響きもシドの意思を揺るがす事は出来なかった。 「よしっ! おじちゃんだ。それでいいぞ! お穣……リディア――」 こんな状況であってもシドは満面の笑顔を絶やす事はなく彼女の名前を呼んだ。 「あの老いぼれにはがつんと一喝してやりたいし、ヤンも一人では寂しいからな、これで心残りといえば……お前達の未来の姿―― 可愛らしい――を拝むことが――ぐらいだ――」 「皆さんっ発進します!!」 シドの言葉の最後の方は良く聞こえなかった。入れ替わりに、ドワーフの兜を被ったシドの弟子の初々しい指令の言葉が聞こえた。 天かける船が空へと発つ。シドの残されたバブイルの発着場は段々と遠ざかりついには視界で確認することも出来なくなった。

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