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終わって欲しい一日が終わる時は、大抵この男と行き会う。巡り合わせが悪いのだろう。
魔導師ケフカ。
「お前。」
真っ白の顔に、つやのない赤い唇。きつい染料に彩られた眦。無視するのも困難な奇抜な姿。
闇が宿る灰色の目は、値踏みするように細められている。
セリスの倦怠感は一気に増した。戦場から離れて、これほど見たくない顔もない。
「…何か」
回廊は暗く、声はよく響く。
「このところ、シドが何か企んでいるそうじゃないか」
浮世離れした驕慢な面持ちは、意思の疎通すら疑わしい。相性が悪いのではない。この男と相性がいい人間など一人もいないだろう。早く部屋に戻りたいと思った。
「さて…」
「ふん」
ケフカは形よく整えた眉を皮肉げに寄せる。涼しげな香水の匂いが風に乗ってきて、それがやけに気に障った。
「まぁ、今日のところは、快勝に免じて見逃してやろう。遠征ご苦労」
敢えて表情を変えないよう努め、会釈だけして通り過ぎた。
この男とは相容れない。
本能がそう告げるが、殺戮を楽しんでいるかいないかの違いだけで、セリスだってケフカと同じだ。人を殺す。
実際に手を下さなくても、自分の「将軍」という立場は、事実上、虐殺、強姦、略奪、そういったこの世の醜いものを容認している。たとえセリスがそれらを禁じたとしても、なくなりはしないだろう。戦場にモラルはない。
幾らケフカを嫌悪しようとも、所詮は同じ穴の狢なのだ。
セリスは、ケフカのブーツの音が背後に遠ざかっていくのを聞きながら、長いため息をついた。
滴り落ちそうな疲労が全身を充満する。
自室に向かおうとする足も重い。
(消え去ってしまえ。)
夜を凝縮させたような静謐の中で、何度も繰り返した呪文を唱えた。