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他の土地に暮らす者に比べれば慣れているとは言っても、雪道を走るのは楽なこと
ではない。凍結した地面の上に積もった新雪を踏みしめながら、彼は背後に迫る
帝国軍よりも先に炭坑の奥へ辿り着かなければならなかった。
炭坑を守る最後の切り札、それを解放するのが彼に課せられた任務である。
走り続ける男の脳裏によみがえるのは、今見たばかりの悪夢の光景。魔導アーマーに
搭乗していたあの無表情の少女は、雪の上に僅かに残った仲間の骨を踏み越えた。
新雪を踏みしめるのとは明らかに違う、骨が砕かれる小さな音が耳から離れない。
数時間前まで、それは確かに会話を交わしていた仲間だったのに。
(くそっ、化け物め……!)
思わず足がもつれた。辛うじて転倒は免れたものの、派手に雪を蹴散らしながら大きく
体勢を崩した。それでも炭坑へ向かう足は止めなかった。
仲間達の命を次々と飲み込んでいった魔導アーマー。あんな化け物に対抗できる力は、
もう1つしか残されていなかった。
それはこれまで、忌むべき存在として炭坑の奥で眠っていたもの。呼び覚ますためには
自らの命を差し出す覚悟さえも必要とする程の存在。しかし、今となっては頼れるのは
それだけだった。
帝国に踏みにじられた仲間達の命を、無駄にするわけにはいかない。
彼は意を決し、檻の向こうの闇を見つめた。