一節 新たなる旅立ち8

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オアシスの南に広がる平地。そこでは複数のキャラバンがテントを張って、焚き火を囲み酒を飲み、日没から就寝までのひとときを過ごす。 スパイスの効いた炙り肉。蒸留酒に水煙草。小銭を賭けてのカードゲーム。 無秩序な騒ぎの中で、ふいに場違いな音を耳にし、商人たちの間に緊張が走った。 宵闇の向こうに、小さな光が見えている。おぼろげに浮かぶ影は、大人と子供の二人連れに見えた。 「誰だ?」 部下たちの中に欠けた者がないことを確かめて、ビッグスは声を放った。 「怪しいものじゃない」 返答に混じって、再び同じ音がする。今度はやや長く──リュートが奏でる音階と、聞き覚えのある声に、ビッグスは警戒を解いた。 「……おまえか、ギルバート。おどかすな」 40年以上も商売を続けていれば、酒場や広場で技を披露し対価を得る芸人たちとも、それなりの縁が出来てくる。ギルバートもその1人で、他の町へ移るついでに連れて行ったこともあった。 「それは悪かったね。でも、町中でそこまで用心してるとは思わなかった」 「まあ、普通ならな」 このところ物騒な話が多い。地下水路に巣食った怪物、山崩れに飲まれたミストの村、ここカイポでも、どこぞの宿が人間に化けた魔物に襲われたらしい。 「知ってるか?  何でも、ダムシアンまで襲われたって話だ。  城から逃げてきたって連中も近くにいるが、それっきり音沙汰が無いってんで──」 「なんだって!  その人たちはどこに!?」 勢いに呑まれたビッグスが、避難者が集まっているテントを指すと、若い詩人はすぐさま身を翻した。 「あ、おいてかないでよ!」 カンテラを下げた女の子が後を追うが、運悪く横切った商人とぶつかり、見失ってしまったようだ。 「もう~~~っ、ギルバートのバカ!」 「仕方ねえ、連れてってやろうか?」 ビッグスの申し出に、少女は力いっぱいうなずいた。どうも見覚えがあると思ったら、以前拾った暗黒騎士が連れていた子だ。あのときはずっと眠っていたので、ビッグスのことは覚えていないだろうが、今はすっかり元気らしい。 「じゃ、ついてきな」 親切心だけでない。顔と名前と歌い手としての力量以外、ほとんど知らないギルバートの変貌に、彼は好奇心をそそられていた。

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