一節 新たなる旅立ち10

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──ダムシアンに着いた後も、アンナはギルバートを説得した。父テラと話し合い、結婚を許してもらおうと。 ”無理だよアンナ、ぼくなんかが……” ”そんなこと言わないで。もっと自分を信じるのよ!” 既に一度、にべもなく断られている。いくら愛していようとそれだけで娘はやれん、そう言われてギルバートは反論できなかった。身分を持ち出しても怒りを買うだけだろう。 ”きっと今度こそ、君と引き離されてしまう。そうしたら、ぼくは……ぼくはどうしたらいいんだ!” ”ギルバート、勇気を出して!” そして。度重なる懇願に、遂に折れたギルバートが城を出ようとした矢先。 アンナは彼を庇って死んだ。 もっと早く決心していれば、少なくともアンナは命を落とさずにすんだ。 ”大丈夫。あなたは、私が選んだ人なんだから……” 彼女は何度も、そう言ってくれたのに。 「明日ファブールに向かう。  バロンで起きてることを止めなければ、いつまた今度のようなことが起きるかもしれない」 泣き崩れるダムシアンの民に向けて、ギルバートは言葉を続けた。 「バロンにも今のやり方に反対している者がいる。  彼らと同行し、ファブール王との橋渡しをする。ぼくにしかできない役目だ。だから……」 「我らを捨て置いて、この国を出られる、と?」 「違う!」 ずっと逃げていた。何かを決めること。なにかを背負うこと。何かを伝えること。 「今すぐに、皆の力になれないことはすまなく思う。  でも、信じてほしい。  ぼくにできる精一杯の事をする。そして……必ず戻ってくる」 ギルバートは訴えた。厳しい目をしたマトーヤに。頼りなさそうに彼を見あげる女たちに。 「ぼくのことを、信じてほしい」 ひとり仇を追うテラに。愛してくれたアンナに。 そして自分自身に。 「うん! ぼく、しんじるよ!」 声を上げたのは、一同の中でもっとも若い──否、幼い子供だった。それを号令として、5人の女たちが一斉に膝をつく。おごそかに、マトーヤが宣言した。 「クリスタルの祝福を。……吉報をお待ちいたします」

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