二節 剛の王国16

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 もう引き返すことのできない状況にあることを悟り、セシルはゆっくりと 回廊の中心に歩みだした。カインも自分と対象的な弧を描くように歩き出す。 特殊な水晶でできた床面が、鏡面のようにいくつもの彼らの虚像を描く。 ヤンとギルバートが身を引き、闘いの前の不気味な静寂があたりを支配した。  背水の陣。自分が破れれば、すでに陥落しかけているこの城の運命は決まる。 そして、目の前に対峙する男は、まちがいなく今まで戦った敵の誰よりも強い。 かつてないほどに追いつめられた局面でありながら、不思議なほど、セシルの 胸中は穏やかだった。  セシルは、ふと幼い頃を思いだしていた・・・。  セシルには両親がいなかった。森の中で布にくるまれて泣いているところを、 狩りに出ていた王が見つけたのだった。妻に先立たれ、自身も孤独にあった王は、 ひとりぼっちの赤ん坊に自らの姿を重ね、彼を我が子として育てることにした。                暖かい愛情の中でセシルは育ち、物心ついた頃から父に憧れて剣を学び始めた。 王はあまり彼を城下に出したがらなかったので、剣だけが彼の唯一の友人となり、 日に日に彼の技は上達していった。  やがて少年の年頃になり、彼は学校に入った。  初めて出会う同年齢の学友達にセシルは期待を膨らませたが、名家の出身が ほとんどであった王立学校で、家柄という後ろ盾をもたないセシルは蔑まれた。 それでも、セシルは差別を王に訴えるようなことは決してしなかった。それが彼の うまれもった誠実さでもあり、なにより、やがてそんなことが全く気にならなく なるような、二人の素晴らしい友人に出会えたからだった。  ローザと、カイン。

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