三節 Two of us1

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ギルバートは逃げ出した。 息を切らし、薄暗い地下道をひた走る。手当てしたばかりの傷が開き、再び血が流れ出すのがわかった。 ファブルール王らはここで追っ手を防いだのだろう、無造作に転がる双方の死体が激闘を物語る。流れ出した体液はまだ乾ききらず、急ぐ足元を滑らせた。 周囲に動くものの姿はない。 死臭に満たされた空気は、ギルバートに故郷を思い出させた。 竜騎士カイン──ミストの惨劇を境に消息を絶った、セシルとローザの幼馴染み。 彼らが友人の名を口にするとき、必ず深い信頼と、その身を案じる響きがあった。 しかしカインは敵として現れ、行く手を阻むセシルを一方的に翻弄した。奥の手である暗黒の力さえ通じなかった。 そして、勝敗が決してからの行動は完全に常軌を逸している。セシルたちから聞いた人物像とあまりにかけ離れていた。 人とも思えぬほどの強さ。かつての友を嬉々としていたぶる残酷さ。今のカインの邪悪さは、ダムシアンを滅ぼしたあの男に酷似している。単なる心変わりでは済まない異常さをギルバートは嗅ぎ取っていた。 もし何らかの手段で操られているのだとしたら──ローザの白魔術でなら、正気に返すことができるかもしれない。ファブール王負傷の報とともに、彼女の居場所も伝えられている。 (何の根拠もない思い付きじゃないか……) (以前の彼を知りもしないのに) (余計なことをして、ローザまで危険にさらすだけかもしれない) (こうしている間に、セシルは殺されてるんじゃないか?) (自分で立ち向かおうともしないで……) (結局、ただ逃げ出しただけじゃないのか?) 暗い考えがあとからあとから浮かんできて、ギルバートの足を止めようとした。 けれどそのたびに、背中を押してくれる声もまた、胸の奥に刻まれている。 ”……自分を信じるのよ!” 悲しみは少し薄れても、彼女の残した言葉は消えない。己に負けて、立ち止まってしまわなければ。

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