三節 Two of us14

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「シド・・」 「それに、わしがいなくなれば助手どもの命も危ない。  ・・なにより、娘を残しては、行けん」  目を細めるシドに、ローザは恨めしそうな声を出した。 「・・もう一人の娘の力には、なってくれないの?」  うなだれる彼女の頭に、ごつごつした油臭い父の手が置かれる。 「ローザ、この国は腐りきっとる。古くなった船と同じじゃ。そこら中にガタがきて、 いまにも沈んでしまいそうな有様じゃ。しかも、薄汚いウジ虫どもまでたかっとる。 正しい歯車が残らないといかんのだ。わしは見守らねばならん。それがわしのつとめ なんじゃよ。わかるな?」  静かな沈黙が流れた。ローザは顔を上げると、小さく微笑んだ。 「・・わかったわ、シド」  二人は見つめ合い、親子の抱擁を交わした。あたたかい、人間の温もりが感じられた。  やがて彼らの耳に、二人を引き裂く無慈悲な追っ手の声が届きだしていた。 「きっと帰ってくるわ、セシルと一緒に」 「カインのやつもな」  そっと身を離し、ほんの刹那の躊躇の後、ローザは堀に飛び降りた。それ以上、シドの 顔を見ていられなかった。シドは懐から木槌をとりだし、高らかに笑い声を上げた。 「おう、ヒヨッコども! 脱走者ならここじゃーー!!   遊んでやるから片っ端からかかってこいや!!」  堀を抜けて、ようやくバロン城の外に出る。  背後からは暴れ回る楽しげなシドの声と、衛兵達の怒号が聞こえていた。  ローザは、すっと涙を流した。それでも決して振り返らず、彼女は走り続けた。  別れではない、必ずまた戻ってくるのだから。  そう言い聞かせて、彼女は流れる涙を拭おうともせず、祖国をあとにした。

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