FINAL FANTASY IV プロローグ6

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”準備は俺に任せて、今夜はゆっくり休め” カインの厚意に甘え、西の塔に与えられた私室へ向かうセシルを、ひとりの女性が呼び止めた。 「セシル!」 彼が振り向くのを待たず、ローブの裾を軽くはためかせて、声の主はセシルに駆け寄った。繊細な顔立ちと、意志の強い瞳を併せ持つ、白魔道士ローザ。窓から差し込む夕陽を受けて、緩やかに波打つ髪が、彼女の名に相応しい色彩を帯びている。 「良かった、無事だったのね。  あまり急な任務だったので、心配したわ」 「無事さ、僕らは…  無抵抗な魔道士相手に、傷など負いはしない……」 「セシル!」 捻じ曲げた口の端から自嘲を溢れさせた暗黒騎士を、咎めるようにローザが叱咤する。 その口調は、あたかも母か姉のような労りに満ちていた。 ──孤児であるセシルの記憶には、そのどちらも存在しない。 ただ、あえて任務の内容に触れなかった、ローザの優しさが嬉しかった。 だが今はその気遣いも、かえって彼の傷を浮き彫りにしてしまう。 彼女の励ましに、すぐに報いることは不可能だった。 「後で、あなたの部屋に行くわ……」 「ああ…」 「それじゃ」 軽く首を傾げて見を翻すローザを、セシルはぼんやりと見送った。 迫る夕闇の中で、長い渡り廊下を遠ざかる後姿が、白く浮かび上がる。 たなびくローブの先端が角の向こうに消え、向きを変えようとしたセシルは、彼自身がまとう鎧の一部に目を止めた。 漆黒に赤を映しこんだそれが、返り血のように見えてしまい、セシルは一瞬、立ち竦んだ。
”準備は俺に任せて、今夜はゆっくり休め” カインの厚意に甘え、西の塔に与えられた私室へ向かうセシルを、ひとりの女性が呼び止めた。 「セシル!」 彼が振り向くのを待たず、ローブの裾を軽くはためかせて、声の主はセシルに駆け寄った。繊細な顔立ちと、意志の強い瞳を併せ持つ、白魔道士ローザ。窓から差し込む夕陽を受けて、緩やかに波打つ髪が、彼女の名に相応しい色彩を帯びている。 「良かった、無事だったのね。  あまり急な任務だったので、心配したわ」 「無事さ、僕らは…  無抵抗な魔道士相手に、傷など負いはしない……」 「セシル!」 捻じ曲げた口の端から自嘲を溢れさせた暗黒騎士を、咎めるようにローザが叱咤する。 その口調は、あたかも母か姉のような労りに満ちていた。 ──孤児であるセシルの記憶には、そのどちらも存在しない。 ただ、あえて任務の内容に触れなかった、ローザの優しさが嬉しかった。 だが今はその気遣いも、かえって彼の傷を浮き彫りにしてしまう。 彼女の励ましに、すぐに報いることは不可能だった。 「後で、あなたの部屋に行くわ……」 「ああ…」 「それじゃ」 軽く首を傾げて見を翻すローザを、セシルはぼんやりと見送った。 迫る夕闇の中で、長い渡り廊下を遠ざかる後姿が、白く浮かび上がる。 たなびくローブの先端が角の向こうに消え、向きを変えようとしたセシルは、彼自身がまとう鎧の一部に目を止めた。 漆黒に赤を映しこんだそれが、返り血のように見えてしまい、セシルは一瞬、立ち竦んだ。 -[[FINAL FANTASY IV プロローグ7]]

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