竜の騎士団 18

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 彼は「ご子息へ」と記した短い手紙を書き残して、寝室で自ら腹を切った。手紙には淡々と 彼の葛藤が刻まれていた。  ずっと先からカインの母を愛していたこと。母が父と結ばれてからも、その想いは断ち切れず、 むしろいっそう募るばかりであったこと。そして父がその母をむざむざ死なせてしまったこと。 どれだけ鍛錬を積んでも父を超えることができなかったこと。殺したいほど父を憎んでいたこと。 しかし、心の底では彼への尊敬の念を拭いきれなかったこと。孤独であった自分が、母の面影を 強く残していたカインをどれだけ大切に思っていたかということ。  そして、父が死んだ日のこと。  その日、竜騎士団はバロン南方の山脈に魔物の討伐に出ていた。飛竜達は産卵期を迎えて気が 立っていたため、騎士達だけでの遠征であったが、空を駆ける彼らに山道など物の数でもない。 魔物をたやすく退けながら、彼らは着々と任務を進め、やがて夜を迎えて山中に陣を張った。  最前線に構えた天幕の中で、団長と副長は戦況を話し合っていた。  「兵の状況は?」 「今のところ負傷者はおりません。魔物どもは窪地の周辺に逃げ込んだようです」 「順調だな。この分なら、明日には引き上げられそうだ」 「嬉しそうですね、団長」 「いや、そうでもないさ。家ではおそらく、カインの奴が槍を構えて待っていることだろう。 稽古をせがむつもりでな。まったくあいつと来たら、魔物の相手の方が何十倍も楽だよ」  団長は苦笑しながら肩をすくめてみせる。副長も微笑を返したが、彼の幸福に満ちた愚痴に、 その心中は煮えくり返っていた。 (────なぜ貴方にはカインがいる) (────あのひとを見殺しにしたというのに) (────いつか貴方はカインをも傷つけてしまうんじゃないか)

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