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「船に乗るのは久しぶりだな・・」
船が陸を離れてから半刻ほどたっただろうか。双瞼を閉じ、波の奏でる心地よい音色と、
広大な海原のゆったりとしたうねりで、まるで大きなゆりかごの中で揺さぶられるような
感触に浸っていたセシルは思い出したように声を出した。ヤンは船員達の作業を手伝うと言い、
リディアは海を見に出て行ったきり戻ってこない。あてがわれた船室にいるのは、セシルと
ギルバートの二人だけだった。
「・・君は空の船乗りだったからね」
こちらも目を閉じていたギルバートは、セシルの言葉に小さく笑って答えた。
セシルも笑みを返した。彼の言葉でまた、ファブールを旅立ったときの事が思い返される。
(そう、僕は赤い翼の人間。略奪者たちのかたわれだったのに・・)
船室の窓から海を眺める。
ファブールの姿はもう、遠く見えなくなっていた。