一節 航海4

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セシル殿! あなたは我々を侮蔑されるのか!」  突然ウェッジが声を荒げた。 「我らファブールの民が、そのような度量の狭い者の集まりとでもお思いか!?」 「・・・」 「その鎧の内側にある本質も見抜けぬような目くらとお思いなのか!?」  熱が入ってしまったことを恥じるようにウェッジは息をついた。だが、その目にはまだ 彼の情熱がらんと光っていた。 「・・セシル殿、確かに我ら民衆は国に属するもの、国を守り、国を尊び、そして 国を愛するものです。だが、だからといって我々は国そのものではない。そこに固執する あまり、祖国への愛情をはき違えてしまっておいでではないか?」 (・・・ウェッジ)  目が覚めるような思いで、セシルは目の前のモンク僧の言葉をかみしめていた。  その通りだ。王を憎み、祖国に絶望して剣を向けたのに。その実、自分の心は結局のところ 国に属していた。もちろんそれに気づいてはいた。だが、どれだけ変わっても祖国は祖国だ。 それが愛国というものだと、そう信じていたからこそであった。  しかし、間違いだった。国を愛しているからこそ、国を捨てねばならない時があるのだ。 何のことは無い、自分には勇気がなかったのだ。国を捨て、帰ることが許される場所を失う ことが怖かったのだ。そして、そんな彼の心を後押しするように、力強い言葉が響く。 「心配召されるな、セシル殿。  ファブールの民はあなたに感謝こそすれ、決して憎みなどしますまい」  ウェッジは笑みを浮かべて振り返った。背後に沸き立つ大衆の姿が、なによりの証明では ないか、そんな自信に満ちた笑顔だった。セシルがうなずきかけた所を、後ろから猛烈な 勢いで背中をぶっ叩かれた。 「そうだよ、セシルさん! あたしらはそんな尻の穴の小さい人間じゃないんだからね、 馬鹿にしてもらっちゃあ困るよ! それにあんた、やらなきゃいけないことがあるんだろ!? くだらないこと考えてないで、しっかり頑張りなね!!」 「あ、ありがとうございます」  豪快な奥方の振る舞いで、周囲に広く笑いが起こった。  吹き飛ばされそうな笑い声の中、セシルはずっと自分の心を覆っていた霧が、ついに晴れて ゆくのを感じ取っていた。

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