一節 闇と霧の邂逅11

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いち早くその予兆に目を止めたのはカインだった。場違いな色が視界の右端を過ぎ去り、それが袋から漏れた赤い光を反射した、セシルの篭手だと気がついた。 「おい、荷物が光ってるぞ?」 不定期に瞬く赤い光は、徐々に大きくなっていくようだった。驚いたセシルがその源を取り出す。 「指輪が光る……!?」 赤々と、いまや燃えるように光を放つボムの指輪。表面を覆う薄い布地がほどけぬように施された、見慣れぬ紋の封蝋に、セシルの指先が触れた。 幻獣との戦いの中、その封は衝撃に歪み、割れた瓶の破片によって損なわれていた。辛うじて原形を保っていた所に、鋼鉄の武具が、爪の先ほどもない小さな傷を付け加えたとき──紋章の形は決定的に崩れ、その効力を失った。 「つっ!」 指先に鋭い痛みが走る。セシルは咄嗟に手の中のものを放り投げた。 赤い星がさかしまに流れる。宙に投げ上げられた塊は、本物の炎によって倍以上の大きさに膨れ上がっていた。 瞬く間に消し炭と化したその中心から、一抱えもある巨大な火の玉が次々に生み出されていく。 小さな装飾品は、その名と同じ魔物を虚ろな環の中に封じ込めていたのだ。 ボム。虚空に漂う紅蓮の中に、残虐な笑みをたたえた人間の顔を浮かび上がらせた、生命ある炎。 握り拳大の核を包んだ火ももちろん厄介だが、本当に恐ろしいのは、手傷を負うか同族以外の炎に触れた途端に弾け飛び、自らの消滅と引き換えに周囲を焼き尽くすその性質だ。 20体以上はいるボムたちが、当然自分達に襲い掛かってくるものとセシルたちは考え、あわてて武器を構えた。 しかし魔物はふたりを無視し、前方に見えるかがり火に向け、獲物を追う猟犬のように群れ集い空を滑る。 少なくとも今すぐに、圧倒的な数の敵を相手にする羽目には陥らずに済んだが、2人にとってそれは必ずしも幸運ではなかった。 なぜなら、ボムの群れが目指す先には── 「まずい!」 「……村が!!」 遠ざかる魔物の列を追い、全力で駆け出す2人の騎士。 しかし炎と競うには、人の体は重すぎた。

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