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もはや海は、穏やかな青などではなかった。
ざわざわと荒立つ白波が、大きな渦を描いている。激しい水流は水に浮かぶ船を嬲るように
引き回し、さながらアリ地獄のように、徐々に徐々にとその口中へ彼らを引きずり込もうと
していた。
「船長! どうなってるんだッ!!」
壁に張り付き、振り回されるような重圧に耐えながらヤンは舵を握る船長に怒鳴った。
だがこの非常時において、なぜか船長は渦の中心を見据えたまま微動だにしなかった。
「・・・・まさか」
ポツリとこぼれたその言葉に、彼らも無意識に彼の視線の先を追った。
その瞬間、渦の中心が裂けた。
「本当に・・いたのか?」
ぽっかりとあいた中心。そして海の底から響いてくるような、巨大な雄叫びが大気を震わせた。
耳をつんざくその音に肌を粟立たせながら、乗員たちは見た。
巨大な影が、その頭を突き出そうとしているのを。
目を見開く船員たちの叫びが、船長の言葉の続きを担った。
「リヴァイアサンだーーーーッッ!!」