一節 闇と霧の邂逅12

「一節 闇と霧の邂逅12」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

一節 闇と霧の邂逅12」(2007/12/11 (火) 21:52:56) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

押し寄せる魔物に気付いた村人たちの悲鳴が届く。 ボムの体が爆散する音が立て続けに空を裂くたび、大気は焼け焦げ、苦しげな唸り声を上げた。 ミスト村の入口でふたりを迎えたのは、村境をなす石柱の列を足場に踊り狂う炎の群れだった。沈みゆく太陽が、誤って堕ちてきたかのような光景だ。 張り巡らされた柵が燃え落ち、代わりに真紅の壁が、村への進入を永遠に阻んでいる。 「……これは!」 せめてもの抵抗のようなカインの叫びは、鉛のように鈍い。 「このために、僕らはここまで……?」 「この村を……焼き払うため……」 声の震えをセシルは自覚した。冷汗が背を濡らす。火傷した指先の痛みも、心中の激情に比べればどうということはなかった。いっそ潰れてしまえとばかりに、強く拳を握る。 そのときだ。村全体を巻き込んで渦巻いた炎の中に、人影のようなものが見えた。 一瞬の迷いもなく、セシルは村中に飛び込んだ。吹き付ける熱風に思わず顔を庇ったところを、強引にカインに引き戻される。 腕を掴まれたまま、ひたすら炎の中を凝視するセシルの前で、その人影はゆっくりと、見せつけるようにゆっくりと、崩れた。 「…………陛下……」 カインが腕を放した。 力なく膝をついたセシルの瞳が、視界を埋めた赤に重なり、ある幻影を映し出す。 決然と炎に消える騎士の背中。その高潔を誰もが称えた、昔日のバロン王の姿を。 かつて実際にこのような光景を目にしたことがある、というわけではない。 しかしバロン王は、セシルが鑑としてきた彼の養父は──もしこの場に居合わせたなら、こうした行動を取るはずだった。 罪もない他国の町から、力ずくで何かを奪うような命令を下したりはしない。 どんな理由があろうとも、村ひとつを丸ごと焼き滅ぼすような真似をするはずがない。 「……何故だ……」 そういう人だった。そういう人なのだ。それなのに。 この惨劇は、何故起きた? 「なぜだぁッ! バロン王ーッ!!」 両の拳を大地に叩きつけて問う。過ぎ去った幻影が、何を答えるはずもなく。 業火に呑み込まれたのは、あるいはセシルが寄せていた、信頼そのものでもあったかもしれない。 迸る慟哭もまた、炎に巻かれ、何処へともなく消え失せた。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。