一節 航海17

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「・・とことん、逃がさないつもりなのか・・!」  もはや彼らになす術は無かった。神の絶対的な仕打ちは、それに抵抗することが罪ですら あるかのような思いを、船員たちの弱った心に植え付けていた。残った船員たちはただ終わりが 齎(もたら)される時を呆然と待ち、船長は船の舳先に座り、感慨深げに海を眺めていた。 荒波に覆われた水面には、先ほど飛び込んでいったヤンの姿も、水に沈んだままもはや見えない。 セシルは憮然として、地に視線を落とした。やり場のない絶望が彼を満たし、それに抵抗する ように彼は拳を床に叩き付けた。 (ここで終わりなのだろうか、・・・こんなところで・・)  セシルは膝をつき、目を閉じて胸の傷跡に手を添えた。 (・・・ごめんよ・・ローザ)  抗う気力を無くした船は、ただ引き寄せられるのみであった。  やがて、無数の悲鳴とともに、大渦はその口中深くに獲物を飲み込んだ。  しばし余韻を味わうかのように満足げな波音が響き続け、それもやがてあっけなく消えた。  後には何も残らなかった。大波も、船の木片も、ひとりの人の姿も。  ただ、穏やかな青だけがその場に息づいていた。

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