二節 試練4

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 夜の闇が訪れ、覆いかぶさるような静けさの浜辺に、さざ波の歌声だけが響いていた。  涙はやがて流れ尽くしても、悲しみは消えない。枯木のように砂に腰を下ろしたまま、 セシルは虚無にその心を沈めていた。  ふいに水音が響いた。魚が星空の美しさに歓喜して飛び跳ねたのだ。セシルは海に目をやると、 黒々とした海面にゆらゆらと揺れるそれの姿に気づいた。  月が満ちていた。 「ローザ・・」  意図せず声が漏れる。水分を失った彼の喉はうまく音を発することが出来ない。その声は、 彼の頭の中だけに静かに反響した。そうして、思い出がそっといらえを返してくれる。 『綺麗ね』  それはセシルにとって初めての日のこと。  その日の夕刻、セシルは広間でローザに呼び止められた。 「セシル、今夜なにか予定はある?」 「いや、今日はもう教練もないから大丈夫さ。  そうだ、カインが美味しい料亭を見つけたらしいよ。三人で行ってみようか?」 「あ。うーん、そうじゃなくて・・二人だけで何処かに行ってみない?」 「え?」 「じゃあ、後で詰め所の裏で待ってるわね」  半ば強引に言い残して、ローザは去ってしまう。セシルは彼女に手を差し伸ばしたまま、 声を出すことも出来ずしばらくそのままで呆然としていた。  やっと我に返ったのは、後ろからやってきたカインが肩を叩いて声をかけたときだった。 途端にセシルは取り乱し、案の定食事に誘ってくるカインを振り切ると、慌てて自室に 走り去っていった。この後、ローザも捕まらず、カインは結局一人で酒をあおることになる。

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