二節 試練10

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 街は静まり返っていた。  先ほどの魔導士の知らせを聞いて、誰も彼も戸を閉ざしているのだろう。  セシルは神殿に足を向けた。神殿にいるであろうこの国の長老に会おうと思った。可能性が あるとすれば、その人しかいない。光への道を示してくれるかもしれない人は。  通りの真ん中を歩く彼の背に、民家から静かな視線が注がれる。無言だが、刺すような圧迫。 かつての赤い翼の非道な仕打ちへの憎悪。それが今、彼一人の背中にのしかかっているのだ。 それはやがて、実体となって彼に襲いかかった。  ────グシャッ!  突然、後頭部に石が投げつけられた。  続けて、生暖かい感触が彼の頭に伝わる。セシルは兜に手をやった。手に付着した黄色い ドロドロからは、喉からこみ上げるような異臭が漂っていた。  石ではない、卵だった。  ・・腐ってる。  次の瞬間、それが合図になったように周囲から矢のように投射物が降り注いだ。分厚い鎧に 雨だれのような音が木霊する。堪らず頭を抑えようとするセシルの耳に、ローザの声が聞こえた。 『弱音を吐かないで』  セシルは顔を上げ、その顔を守っていた兜を外した。  予想しなかった行為と、兜の下に隠されていた意外にも柔和な面持ちに、群衆の攻撃はいっとき 止まった。しかしすぐに再び投射物が彼を襲う。無防備なセシルの顔はみるみる血にまみれ、腫れ 上がっていったが、それを意ともせず彼は黙々と歩を進める。一歩一歩足を踏み出すごとに、 投げつけられるものと共にその重みを増す、罪の意識が彼を襲った。それでもセシルの心は ひたすら真っすぐに向かっていた。中心にそびえる神殿に、そして、さらに先の彼女のもとへ。

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