一節 闇と霧の邂逅14

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短い祈りが済んで顔を上げると、村を一周してきたカインの姿が目に入った。炎上する村を背にして、影絵のように全身が黒く塗り潰されている。 ひとりだった。 「カイン!」 セシルの呼びかけに、傍らの少女が身を震わせる。 「大丈夫、僕の友達だ」 怯えた様子を見て取り、セシルは少女に声をかけた。 首を竦め、合わせたマントを内側から握りしめた子供の、不安げな瞳に気付いているのか、カインは足早に坂を上って来る。 「セシル、この子は……?」 「村の外れにいた。どうも、母親が何かに襲われたらしい」 「!  そいつはまだ、近くに?」 穏かならざる情報に、槍を掴むカインの手に力が篭る。頭部のほとんどは竜の上顎を象った兜に隠れているものの、険しい顔をしていることは想像に難くない。 「いや──気配はない。それに、この子はなんともないんだ」 未知の魔物が、近くにいるかもしれない。その考えに、セシルの表情も自然と厳しくなる。その腕を、小さな手が軽く叩いた。 「……ドラゴンが……」 多少落ち着きを取り戻したのか、あるいは剣呑な空気が危機感を高め、なすべきことに思い至らせたのか。セシルの注意を引いた少女は、初めて、かすれた声をあげた。 「お母さんのドラゴンが、死んじゃったから……  お母さんも……」 深緑色の瞳に大粒の涙が盛り上がり、少女は喉を詰まらせた。頬の丸みに沿って、煤で汚れた顔に縞模様が浮かびあがる。嗚咽の声がまとわりついて、セシルの手足を縛った。 「おか……おか……っ……」 家族を失くしたばかりの子供に、最初からの筋道立った説明を求めるほうが酷だろう。カインも、無理に先を促そうとはしない。 なにより、今絞り出された言葉だけでも、恐ろしい疑惑をふたりに抱かせるには充分だった。 大股で死体に近づき、顔に被せた布をカインがめくりあげる。死者の顔が、再び露わになった。大きさこそ違え、ふたりが幻獣に与えたものと、全く同じ形の傷が。

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