二節 試練28

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 なおも振り返らぬ長老の背に、彼女はそっと頭を垂れた。  何と自分は浅はかだったのだろう。もはや疑う余地など無い。この人の悲しみは、間違いなく 誰よりも深く、そしてなお、この人はその苦しみから逃げようともしなかったのだ。  自分ごときに、彼を問いつめる資格など到底ありはしなかった。 「…だがな、それではいかんのだ」  顔を上げる。いつのまにか老人の目は、うなだれていた彼女を見据えていた。  その声にはもう先ほどの激昂の影も無い。 「ジェシー。今のミシディアはお前の目にどう映っておる?」  長老は壁の一角に掛けられた絵画に目を向けた。  描かれているのは円形の街並、美しいミシディアの全貌だ。 「どう……とは?」 「わしには今のミシディアが、ミシディアには見えん」 「?」 「バロン、バロン、バロン……。街に出れば、誰もがバロンの名を口にしておる。  わしは妙な錯覚すら覚えてしまうよ。ここはミシディアではなく、バロンなのか? とな」 「そんな……そんなことは…!」  思わず強く首を振っていた。だが彼の溜息を打ち消す言葉が見つからない。 「誰も彼もいつまでもバロンへの憎しみを捨てようとはせぬ。彼らはすすんでそうしておるのだ。 誰かに自分を押し付けて生きるのは楽だからじゃ。逃げておるのじゃよ。  それが何より自分の心を擦り減らしているとも知らずに……」 「それは……」 「変われると思わぬか?」 「え?」 「もしもあの男を許すことが出来たら……、あの男が、光をまとって戻って来たならば、 あの男がわしらと同じ、苦しみに悶えていた人間なのだと理解してやれたならば……、 我らミシディアの民の胸にも、まことの強さが戻ってくるとは思えぬか?」 「………」 「それこそがあの男を東に送ったわしの真実じゃ。  わしはミシディアを愛しておる。だが、今の情けない民は許せんのだ!  ……そのツケは、この事態を招いた張本人であるあの男にとらせてやる。必ずな」

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