三節 山間1

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 ミシディア大陸の夏は暑い。  日の長い時間を陽が空に居座り、地に根を張る者たちをじわじわと執拗に炙る。大地は まるで焼けた鉄板のように熱を帯び、その上に生きる生物を上下からはさみ焦がしてゆく。  冬には、これが全て裏返る。海流の流れで混ざり合った季節風は冷たい大気と雨を運び、 彼らから全てを奪いさる。食物も、温もりも、そして生きる気力をも。  だが、この過酷な大地にあって、故郷を追われた人々は懸命に生きようとした。彼らはみな、 自分の家を切実に求めていた。例えどれだけ土が自分たちを拒もうとしているのだとしても、 他に彼らが根を張ることの許される場所などどこにも無かったのだ。  決して多くは望まない。望めば、代わりに何かを差し出さなければならないから。  開拓者たちは、辛抱強く、ゆっくりと根を広げていった。その根が大陸全土に伸び広がった 今でも、彼らの性質は失われることはなく、魔導士たちの静かな勤勉性へと受け継がれている。  だがその彼らですら、決して相容れることの出来ない場所があった。  試練の山。  いつしかその山はそう呼ばれていた。  周囲に広がる広大な森林は、山麓の辺りでぷっつりとその色を断っている。むき出しの岩肌の 斜面には、ところどころに切り立った崖が目立つ。その姿は、あたかも巨大な獣が牙を剥いて いるようで、およそ山という形容に似つかわしくない。  長い間、彼には名がなかった。それどころか、多くの人々はそこに山など存在しないかのように 振る舞おうとした。環境の変動の激しいこの地において、常にその姿を変えることなく聳える山は ひどく不気味に映ったのだろう。彼らはみな、山を恐れていたのだ。人も、植物も、獣たちも。 あるいは魔物たちですら。  山は何者も受け入れない。うだるような熱射も、凍り付くような強風も、人の安らぎも。 彼が心を許す相手は、死だけ。それが無口な彼の唯一の友人であり、そして彼自身でもあった。  奇妙なことに、死期を悟った生き物たちは不思議と山に惹かれた。彼らは何かに導かれるように 足を運び、やがて山と一つになっていった。すなわち、二度と戻っては来なかった。  ある者はこう言う。 「あの山は骨で出来ているのさ。死んでいった連中の骸でな」

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