一節 闇と霧の邂逅16

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「可哀想だが、この子も殺らねばならんようだな」 「カイン!」 少女に向けられた鋭い穂先と、それを握る友人の顔を、信じられない思いでセシルは見た。 「殺らねば俺たちが殺られる!  気付いてるだろう、一歩間違えば、俺たちも炎に巻かれていた!! 「…………!」 「それでも構わないと、王はお考えだった。ここで任務にしくじれば、粛清は目に見えている」 息を呑んだセシルに、憐れむような眼差しを投げかけるカイン。 彼はセシルより、たった一つ年上であるに過ぎない。だが、その一年が大きな意味を持つ少年時代を、ふたりは共に過ごした。 自然と形作られる、兄弟に似た役割の差。その結果が今、現れている。 たぶん、彼の言うことが正しいのだろう。 「だからって……子供だぞ!」 「陛下に逆らえるか?」 「こんな殺戮を繰り返してまで、陛下に従うつもりはないっ!」 ミシディアで浴びた血の臭いも薄れぬうちに、こんな光景を見せ付けられれば、もうたくさんだ。 たとえその選択が、カインとの決別をも意味しようと、退くつもりはない。 「フッ、そう言うと思ったぜ。  ひとりでバロンを抜けるなんて、させやしないさ」 無我夢中の叫びに、カインの腕から力が抜けた。兜の下からのぞく口元が、人の悪い笑みを浮かべる。 「……カイン?」 「いくら陛下に恩があるとはいえ、竜騎士の名に恥じる真似を、出来る訳なかろう」 親友のくせに、そんなことも分からないのか──子供っぽい拗ねた口調に、セシルは赤面する思いだった。こんな幼い少女を本気で彼が手にかけるなど、一瞬でも信じてしまうとは。 「だが、バロンは世界一の軍事国家。俺たちふたりが粋がった所でどうにもなるまい。  他国に知らせ、援護を求めんことにはな」 あさっての方を向いたまま、強引に話を続けるカイン。彼が照れていることが、今のセシルは手に取るようにわかる。 「ローザも救い出さんと!」 「ありがとう。カイン」 率直な感謝に、ますますカインは照れた。首が真横を向いている。さんざん掌で踊らされたセシルの、ささやかなお返しだ。 「別に、お前の為じゃない」 ただの照れ隠しにしては、その声はやや硬かった。

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