三節 山間5

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 デスブリンガーが光っていた。刀身から黒い邪気が溢れるほどに。暗黒剣を放つために、 セシルが自分の命を剣に注いだ時と同じだ。だが、彼は暗黒の力を込めてはいない。  ハッとセシルは動かなくなった巨鳥の残骸に目を向けた。緑黄の草生えを染める黒い血の色が、 黒色の刀身と重なる。 (お前の力なのか……?)   死をつかさどる刃は、満足げにその色を滲ませた。  その後も何度かズーと遭遇したが、結果は同じだった。疑問は確信に変わる。やはり、この剣の 為した仕業なのだ。  つくづく呪われた力だな、と思った。それは彼が暗黒剣を志してから、常に感じ続けていた ことだ。暗黒騎士という甲冑に身を包み、人々からの冷たい視線を浴びるにつけ、彼はいつも 自身を蔑み、そして暗黒剣を蔑んだ。剣を見つめるとき、彼の視線は必ず悲哀に満ちており、 剣もその視線を吸ってまたその身を黒く染めていった。  だが今、剣を見下ろすセシルの顔には、ふっと柔らかい笑みが浮かんでいた。  (……お前にも随分と世話になったんだな)  長年の友を労うような、そんな安らかな想いが彼の胸に溢れていた。  そんな気持ちになったのは初めてだった。そうであった自分が、剣に対してひどく恩知らずな ようにすら思えた。ファブールの最後の夜、ヤンの口にした言葉が耳に響いた。  彼の言わんとしていたこと、その言葉の先にある意味が、今ではよく分かった。例えどのような 性質の力であろうと、それをどう示すかはその人間次第だ。この力に傷つけられた時も、そして 救われた時も、剣を振るったのは僕自身だった。  暗黒剣は闇の力。だがそれは、あくまで使うもの自身の闇に過ぎない。    そんな当たり前のことが、どうして今までわからなかったのだろう。  そして、なぜ今になって気づいたのだろうか。 (…不思議だな)  彼はもう一度、雄大な山を見上げた。 「さあ、行こうか」  まだ律儀に見上げている二人を促し、セシルは足を踏みだした。  彼らの先には、伝説の軌跡が敷かれている。

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