三節 山間7

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「セシルさん? 急がないと、また炎が……」  長老の魔法は、氷の魔法に反応して消えるものの、すぐにまた元に戻る仕組みになっている。  だが、それも彼の耳にはまったく入っていない様子だった。 「どうか…されましたか?」  二人の顔に困惑の色が浮かぶ。  ようやく炎から目を離した彼は、双子の顔をまじまじと見つめた。 「………いや、なんでもないさ。ありがとうパロム。さぁ、先を急ごう」  キョトンとする二人を尻目に、セシルはまた歩を踏み出し始めた。  砂利を蹴立てながら山路を進むこと、はや数刻。森を抜けたときには東に佇んでいた陽も、 すっかり空の頂に落ち着き、彼らの足が荒い岩場に慣れだした頃だった。 「あんちゃ~ん……もうオイラ歩けねえよ」  ようやく三合目の台地にたどり着いたところで、途中ずっと不平をこぼし通しであったパロムが とうとう音を上げた。 「バカッ。まだ、半分ぐらいしか、登って……ないじゃ、ないの…!」  いつものように弟をいさめようとはするものの、ポロムの息も途切れ途切れだ。  無理もない。ただでさえ険しい道を、魔物を相手にしながら登っているのだし、第一二人とも まだ五つに過ぎない子供なのだから。むしろよくここまで保っているというべきだろう。 (……それに)  大きく息を吸い込む。  麓から感じていたが、この山の空気はどうも特殊なようだ。どういうわけか、温度というものが ひどく曖昧なのだ。喉を焦がすような暑さ、それでいて、手足の先が痺れるような冷気。おまけに 空気がひどく重苦しく、そよ風ほどの流れもない。呼吸をするのも一苦労なのだ。ちょうど目に 見えない液体の中を歩いているような、そんな奇妙な感覚だった。  やはり、試練の道とやらは容易ではないらしい。

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