第三話 ナッツクラン

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 次の日の朝、宿を出たぼくはモンブランに連れられて街を歩いた。  ひょっとしたら夢から覚めたら元のセント・イヴァリースに戻ってるんじゃないかってまだ少し思っていた。  けど現実として、街にはモーグリや昨日見たバンガ達が普通に歩き回っていた。  一晩経ったからぼくの方にも少しは余裕ができて、落ち着いて街を見回すことができた。 「もう人間以外の種族も覚えたクポ?」  モンブランが振り返って尋ねてきた。  大雑把に種族の特徴は教えてもらった。 「うん。見た目で区別もつきやすいし、覚えた……と思う」  噴水の周りでちょうど色々な種族が休憩していた。一人一人心の中で指さして再確認する。  まず、モンブランと同じモーグリ族。ぬいぐるみのように小さくてふわふわしてる。  大人でも体は小さくて力はないけど、手先が器用で工業の中心を担ってる。  昨日絡んできたバンガ族。大きくてがっしりした体に、やっぱりトカゲの顔。  全体的に気性は荒いけど、義理堅くて力も強いので頼りにされている。  あっちの女性はヴィエラ族。人間に近いけど、うさぎのような耳と白い髪が特徴だ。  素早くて弓や剣の扱いに長け、精霊と話すことでその力も借りられるらしい。  そして犬のような頭にずんぐりした体のン・モゥ族。  長寿で膨大な知識を持ってて、性格も穏やかな人が多い。魔法使いとしては並ぶ種族がいないらしい。 「モンブランのクランにはどんな種族がいるの?」 「モグも含めて全部の種族が一人ずつ、五人だクポ。マーシュが入るから人間が二人になるクポ」  「へぇ……種族間で仲違いとかはないの?」 「自分の種族を馬鹿にされたら昨日のバンガみたいに怒るけど……基本的には仲良しクポ」  人間だけでも肌の色で戦争したりするのに、ここでは種族だって越えられるんだ。  それは素直に凄いことだと思い感心していると、モンブランは突然疲れたように呟いた。 「まぁ……種族関係なく相性が悪いって組み合わせもあるけどクポ」 「え?」 「多分すぐに、嫌でも分かるクポ」  脅しというより苦笑する感じでそう言った。  それから十分も歩いただろうか。 「ここクポ」  着いたのは中から賑やかな声の聞こえる店だった。 「酒場? ぼく未成年だけど、入っていいのかな」 「基本的にクランの集まる場所だから、お酒を頼んだりしなきゃ大丈夫クポ」   やっぱりお酒は駄目なんだ。  そういえばどんなゲームでも冒険者は酒場に集まるな、なんて思いながら二人で扉をくぐった。  喧噪がさらに大きくなる。  武装した色んな種族がテーブルを囲み、陽気に話をしている。  傷跡だらけの壁には「本日のロウ」や「指名手配」といった張り紙が雑に貼られている。  モンブランの言ったとおり、ぼくと同じくらいの子供もちらほらと見えた。  年齢も種族もばらばらだ。ただ一つ共通してるのは、 「みんな強そうだね」 「クラン同士だけじゃなくて魔物とも戦うし、弱かったらご飯も食べていけないクポ」  そっか。いくら死ななくても仕事ができないと話にならないんだ。  改めて身が引き締まる。せめて足手まといにならないようにしなきゃ。  外観の割に広い店内を歩き、モンブランはきょろきょろと見回す。  大体は多人数が集まって話をしているけど、普通の酒場としての客なのか一人で座ってる人もちらほらと見える。  そういう人は武装してないから一目で分かる。  昼間ということもあるんだろうけど、さすがに肩身が狭そうだ。 「多分地下にいるクポ。今日はちゃんと集まってるといいクポ~」  暗にいつもは集まりが悪いことをほのめかし、モンブランは階段へと歩いていった。  地階に降りていくと、さすがにクランばかりになるのか会話の音も大きくなった。  酒場での騒ぎっていうよりは砕けた雰囲気の会議って感じだ。 「たしか待ち合わせはあっちのテーブルに……あ、いたクポ!」  クランのメンバー。  引っ越してきたとき最初の授業のときみたいに、少し緊張してモンブランの指さすテーブルを見た。  人間とバンガ族が座ったまま、お互いに剣を突き付け合っていた。 「……ええっと、どっちが?」 「……どっちもクポ」  またクポ、と呟いてモンブランは溜息をついた。  攻撃には及んでいないからか、まだジャッジは現れていない。  そのテーブルには他に、興味なさそうに飲み物を飲んでいるヴィエラ族と、困った顔をしながらも凄い速さで本をめくっているン・モゥ族もいた。  各種族がそれぞれ一人ずつ。これがモンブランのクラン員らしい。  モンブランも声をかけかねているのかじっと見ていると、ン・モゥ族がふと顔を上げてこちらを見た。 「おや、モンブラン。お仕事ご苦労様です」  少ししわがれた、年齢を感じさせる声だった。 「……マッケンローさん。そこの二人、気づいてるんなら止めてほしいクポ」  すると隣のヴィエラが顔も上げないまま合いの手を入れた。 「いいんじゃない? いつものことだし」  いつものことなんだ……『相性の悪い組み合わせ』ってこの二人のことなのかな。  モンブランはやれやれとばかりに首を振ると、人間とバンガの間に割って入った。 「エメット、モーニ、今日はどうしたクポ?」  人間がエメット、バンガがモーニっていうらしい。  昨日ポジション争いとか言ってたエメットはやっぱり人間、か。 「お、久しぶりだなモンブラン。聞いてくれよ。モーニの野郎、さっき魔法を避けるのに俺を盾に使いやがってさ」 「勝手なこと言ってンじゃねぇ、エメット。オレが魔道士追い詰めたところに割り込ンできただけだろうがよ」 「魔法に気づいてて止めなかっただろうが」 「止めたらオレが喰らうのに誰が止めるかよ」 「やっぱ盾にしてんじゃねぇか」 「オレのために自分から盾になったンだろ? 誇りに思えよ」  モンブランが口を挟む間もなく次から次に言い合う二人だった。  ……なんだか、実は仲いいんじゃないのかって、何となく思った。 「大体手負いしか相手にできねぇくせに前線に出てンなよ」 「でかい図体でとろとろやられてたら日が暮れてもエンゲージが終わらないからな」 「なンだと、当たりゃ倒れるひ弱なヒュムのくせに」 「避ける力がないから固く固く進化したバンガ様とは違うんでね」 「てめぇバンガを馬鹿に――」 「とにかく! クラン内での私闘は御法度クポ!」  痺れを切らしてモンブランが大声で叫んだ。  結構響いたと思うけど、こういうこともここでは普通なのか、振り向く他クランは少ない。 「まったく、ジャッジが来たりしたらお帰りいただくのが面倒クポ。周りの迷惑も考えるクポ!」  まるで生徒を叱る先生みたいに床を爪先で叩きながら指を突き付けている。  喧嘩していた二人も毒気を抜かれたのか剣を下ろし、肩をすくめた。  何となくこの中の人間(?)関係が見えてくる構図だった。 「ところでさぁ、モンブラン」 「クポ?」  ヴィエラ族の気怠げな声に肩で息をしていたモンブランが振り向く。 「そっちの可愛い男の子は何? お土産?」  可愛い……っていうのも何だか嬉しくない形容だ。  四人の視線が僕の方に集中した。 「そうだったクポ。みんな、新しいクラン員だクポ」 「えっと、マーシュ・ラディウユって言います。よろしくお願いします」  タイミングを逃した後の自己紹介は、その分緊張も薄らいでいた。 「ちょっと込み入った目的のある子クポ。その辺はおいおい話すけど、仲良くやるクポ~」  さっきのやり取りからして受け入れられるか疑問だったけど、意外にも反応は好意的だった。 「へぇ。じゃあ俺にもようやく後輩ができるってわけか」 「またヒュムか。ま、せいぜい足手まといにならンよう頑張ンな」  喧嘩していた二人もあっさりと表情を和らげていた。 「では私達も自己紹介といたしますか。私はマッケンローと申します。よろしくお願いします、マーシュ」  ン・モゥ族が深々と頭を下げ、僕もそれにつられて頭を下げた。 「マッケンローさんは傷を治してくれる白魔道士クポ。知識も豊富だから後で色々聞いてみるといいクポ」  物腰も柔らかくて、いかにもン・モゥの種族の特徴そのままって感じだ。  毛深い体につぶらで理知的な瞳。仙人っていうか大魔道士っていうか、そんな雰囲気。  でも自己紹介をしながらも本を読むのはやめていない。相変わらず常にページがめくられている。  続けてヴィエラ族が頭の代わりににうさぎの耳を折った。 「あたしはカロリーヌ。可愛い男の子は大歓迎よ」 「よ、よろしく」  ヴィエラのカロリーヌさんは、耳以外ほとんど人間と変わらない。  浅黒い肌と白い髪が印象的な女の人で、何ていうか……美人だった。  白い髪、っていうとライル達のリッツへの悪口を思い出すけど、実際に見ると綺麗だ。  ちょっと緊張しているとエメットが横から茶々を入れた。 「マーシュ、だっけか? カロリーヌは若い男を取って食って若さを保ってるって噂だから気をつけろよ」 「え? それってどういう……」  尋ねると同時。凄い風切り音がしたと思うと、エメットの背後の壁に矢が突き刺さっていた。  カロリーヌさんが弓の弦を離した姿勢で微笑み、エメットは青ざめて固まっている。 「まぁ、そういうわけでよろしくね」  何がそういうわけなのか分からないけど、慌てて頷いた。……弓使いってことはよく分かった。 「で、オレがモーニ。最前線に立って他の四人を守ってるウォリアーってわけだ」  差し出された手を握ると固くて大きい。さすが戦士の種族、バンガ族だ。  鱗は生えてるし顔はやっぱりトカゲ……おっと。 「俺がエメット。最前線に立って他の四人を守ってるソルジャーだ」  顔色の戻ったエメットがモーニを押しのけて手を出した。  ……同じこと言ってる。案の定押しのけられたモーニがエメットを押しのけ、押し合いになった。 「まぁそこの二人は放っておくとして、これがモグ達のナッツクランだクポ」  ナッツクラン。それがぼくの入るクランの名前か。 「……うん。それじゃあ改めてよろしくね、モンブラン」 「こちらこそクポ」

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