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「FF7AC ”Help me”1」(2007/12/13 (木) 07:29:34) の最新版変更点
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砂の地面を細く浅い川が流れ、月光に照らされて白銀に輝いている。
まるで筋のようなその川は、他の幾筋もの川と合流し、しだいに太さを増しながら下へ下へと流れていく。
そしてその終着点、小さな水溜りのほとりに、狼がいた。
狼は一匹だけだった。
刺々しい体毛は曇った空のような鉛色をしており、吠えることを忘れてしまったかのように沈んでいる。
狼は水溜りのふちに座り込み、沈んだ眼で小さな池の底を見ていた。
そこにあったのは機械仕掛けの耳だった。
ただ声を受け止め、伝えるだけで、最後までそれ以外の用途に使われることのなかった耳。
他人の耳に呼びかけ、その声に応えることができるということを、最期まで知らなかった耳だった。
壊れかけているその耳は、中に水が浸入したせいで回線がショートし、記憶にとどめられていた声を周囲にまき散らしていた。
『わたし…リーブです。
お仕事はどうですか?チラシ見ましたけどあんなので商売になるんですか?』
『仕事の依頼だって』『ひさしぶり~!ユフィちゃんだよ!』
『クラウドさんらしいですけどね』『すげえデカイやつだ!』『クラウド…元気にし『よければお手伝いしたいので』
『でなあ、帰る目処がついたんでマリンに『また電話させてもらいます…では』『てるの?』『会いに行くからな!』
『伝えとけよ!じゃあな!』
ただ聞き流されただけの、一度も返答を返されなかった声。だが、決して記憶から消えることのなかった声。
狼は物憂げにたたずみ、微動だにせずにそれらの声を受け止めていた。
だが、この時。
その耳は、完全に機能を停止する寸前、記憶に保存されていないはずの声を再生した。
「悪く思ったこと…一度もないよ。
来てくれたでしょ?それだけでじゅうぶん」
聞いた者を安心させるような、包み込むような声だった。
狼はその声を聞いても、ただじっとしているだけだったが、しばらくして、哀しげに一声鳴いた。
そして立ち上がり、木々の陰へ向かって、こそこそと逃げ出してしまった。