三節 不和の旋律2

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トロイアの町の東、柔らかな牧草で覆われたごく狭い高台に飛空挺をおろし、セシルたちは市街地へと繰り出した。 ぬるんだ空気と水のにおい。石造りの建物は少なく、草で屋根を葺いた木造の小屋が目立った。河岸では女たちが洗い物を広げ、夕暮れを映した薄紫色の水の上を、緑色の果実を積んだ舟が滑っていく。 一向は浮橋をわたり、中洲に立つ大きな建物へ向かった。 「いらっしゃい!」 いくつかの棟が合わさった、大きな食堂だ。気風のよい女主人に料理と酒を注文し、用向きを告げる。女将はしばらく考え込んで、テーブルのひとつに陣取った一人の男をセシルたちに紹介した。 「ロドニー、あんたにお客だよ」 「なんや、メシ持ってきたんとちゃうんか」 盆で頭を叩かれ、ロドニーと呼ばれた男は卓上から足を下ろした。日焼けした体躯、訛の入った口調、明るい茶色の髪と目。熟練の狩人、あるいは漁師といったところか。年齢はヤンと同じくらいで、彼と同じく口髭をたくわえている。 「で、なんか用かい、兄ちゃんたち」 どうやら気さくな人物らしい。同席を願い出たセシルたちを快く受け入れ、問いかける口調は、子供のような好奇心であふれていた。 「磁力の洞窟に行きたいんだ。  案内してくれる人を探したら、あなたが適任だと言われた」 「……はぁ?」 よほど意外な申し出だったのか、ロドニーは目を丸くした。 「やめときやめとき。あんなところ、地元のもんでもよう行かん」 「そういうわけにも行かないんだ。どうにかならないか?」 「む~。雨季やったら、何とかならんこともないけどな~~  なんや、宝石でも拾おうっちゅうわけか?」 「……そんなところだ」 セシルに先んじて、ロドニーの追求をテラが誤魔化す。眉に埋もれがちな目配せに、セシルも頭を冷やした。土のクリスタルが奪われたことは、まだ一般の国民に知らされていない。いずれ公表するにしても、判断するのはこの国の統治者であるべきだ。

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