四節 Eternal Melody5

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初めて目にする異国の男は、エリスには、狂っているとしか思えなかった。 寝台の上に上体を起こし、手にした骨細工のようなものに向かって、一人でつぶやいている。 俯いた横顔を髪が隠しているので、顔はよくわからない。ただ、大きな傷跡のようなものは見えた。 今にも命が危ういような、差し迫った気配はない。 「セシル……ヤン……  返事を……」 声をかけるべきか、誰かに報告すべきか、素知らぬ顔で立ち去るか。迷いながら物陰で中を窺ううち、男の様子に変化が現れた。 「セシル……聞こえるか!?  気づいてくれ、僕だ、ギルバートだ!」 呼びかける言葉に確信が宿る。耳を澄まして返事を待つ。応答はない。人の声では。 代わりに聞こえてきたのは、恐ろしげな唸り声。硬い物が打ち合う響き。柔らかく重たい何かが、どさり、と地面に落ちる音。 それらは全て、客人──ギルバートが手にした、奇妙な品から発せられていた。 ヒソヒ草、という名前をエリスは知らない。ただ、目の前の男が狂ってなどいなかったことを理解した。 厚い布を通したような、くぐもった物音が、遠く離れた磁力の洞窟での出来事を、この場に伝えているのだ。 戦いの最中にあると知って、ギルバートは一時呼びかけを中止した。息を詰めて、手の中のヒソヒ草が届ける情報に耳を傾けている。 やがて雷鳴のような鋭い音を最後に、争いあう音は止み、人の話し声が取って代わった。 聞き取り辛いが、どうやら休息を取ろうとしているようだ。 「セシル……!」 三度の呼びかけで、ヒソヒ草の向こう側から音が消える。 「ギルバートだ。ヒソヒ草を通して声を送っている。  聞こえていたら、返事をしてくれ……」 今度ははっきりと反応があった。 荷物をかき回すような、ごそごそという音がしばらく続き、突然、音が鮮明になる。 『ギルバート!?  本当にギルバートなのか!?』 「……ああ。僕だよ、セシル」 ギルバートの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。こっそりその様子を見ていたエリスも、なぜか自分のことのように嬉しかった。

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