四節 Eternal Melody18

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歌は広がっていく。少し浮かれた気分と共に、水に溶かしたインクのように、トロイアの町を染めていく。 その現象を、誰が意図したわけでもなかった。 「なりませんよ、ラグトーリン」 大神官の私室に続くバルコニー、紅茶と風を味わいながら、トロイアを統べる貴婦人は妹を諭した。 「言いたいことは分かります。  ですがそなたとて、この国の政を担う身。決定には従いなさい」 「……これが最後かもしれないのです」 久方ぶりに本名で呼ばれた七の姫も、そう簡単には引き下がらず、十ちかく離れた姉を相手に嘆願を続ける。 「吟遊詩人としても名を馳せた代々のダムシアン王族の中でも、1・2を争うとまでいわれた方。  一度で良いから直に聞いてみたいと……出来れば、共に奏でてみたいと、ずっと思っていました」 姉妹の視線が合わさり、風が止まった。大神官の指が白磁のカップの縁を撫ぜ、花を透かし彫りにした丸テーブルの下で、ラグトーリンが拳を握る。 「歌い手として、素晴らしい弾き手と合わせたいだけです。  どうか、許しをください」 「噂など当てにはなりませんよ? 第一あの方は、もはや詩人としても」 「噂以上の方でした。  元が優れていればいるほど、今の声と鈍った指に、打ちのめされてしまうはず。  あれほどまでに揺るぎなく歌い続けることは……少なくとも、私には出来ません」 長姉の言葉を、ラグトーリンが遮る。彼女らの記憶にある限り、それは初めてのことだった。 涼気を帯びた風が、バルコニーを吹き過ぎる。 それは人の声を乗せていた。かすかな──大勢の声が溶け合った、街角に流れる歌を。 ため息をひとつついて、大神官は譲歩した。 「楽司として歌うのではないのですから、祭具には一切触れてはなりませんよ。  ただの娘が戯れに何を口ずさむかは、私の知ったことではありません」 「……ありがとう、姉様!」 目を輝かせ飛び出した妹を見送り、大神官はカップを傾けた。最後の一口を口の中で転がし、ゆっくりと飲み下す。 結い髪で半ば隠れた耳元に、風が再び歌を届けた。 それからさらに、時は経ち。 「……みつけた」 詩人はついに指を止め、確信を込めて呟いた。

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