四節 Eternal Melody20

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呆然と、ギルバートは切れた琴糸を手に取った。 ガラクタも同然の姿に成り果てていた”夢の竪琴”。 磨きなおされ、まっさらに生まれ変わったように見えた彼の楽器には、見えない罠が潜んでいた。 波と潮風でひどく傷みながらも、辛うじて切れずにいた、数本の弦。 名も知らぬ修復者は、多分、できるだけ以前の面影を留めるよう気を使ってくれたのだろう。 旋律を追うことだけに気を取られ、物言わぬ相棒への配慮を忘れた報いが、最も重要な場面で現れたのだ。 『クリスタルを!』 ヒソヒ草の向こうで、ヤンが叫んでいる。 ギルバートは手早く切れ端を本体から外し、視線を巡らせた。 水差しを載せたテーブル、いくつもの小瓶を収めた作り付けの棚、色とりどりの衣服でいっぱいのクローゼット、どこにも求める品はない。 隅で忘れられた鏡台の上を漁り、引き出しの中身を掻き出す。 ひととおり室内を荒らしたあと、誰かに頼んだほうが早い、ということに気づき、ギルバートは人を呼ぼうとした。 しかし突然、激しい眩暈と吐き気が彼を襲う。次に気づいたときには、寝台の上に横たわり、首筋を綿布で拭われていた。 「無理をしすぎです」 目を開けたギルバートに言い渡し、年老いた医者は血で染まった布を手桶でゆすぐ。 少し首を動かすと、汚れた床を拭き清めている、助手の青年の姿が見えた。 薄靄がかかる視界の中、浮き上がるように散った赤。その濃く鮮やかな色合いが、出血からほとんど時間が経っていないことを示している。 まだ、間に合う。 「おやめなさい、まだ動ける状態ではありません!」 竪琴は鏡台に置かれたままだった。小柄な老婆にすがるようにして、ギルバートは身を起こす。 「……心配いらない。  すぐそこまで……」 やけつく喉から搾り出した返事は、果たして声になっていたか。すぐさま膝が崩れ、上下の区別さえ覚束なくなる。 (今、セシルたちを救えるのは) 床を這うギルバートの意識に、闇が降りてくる。 (僕しか……いない……!) 決意とは裏腹に、闇は容赦なく迫ってくる。彼を飲み込み、ただひとつの希望を閉ざす。 ──いいえ、もうだいじょうぶ。 囁く声が誰のものか、思い出す力ももう残されていなかった。

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