三節 山間42

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地面を蹴り、暗黒騎士へと斬りかかる。 しかし、向こうは軽くセシルの太刀を受け流す。 それもほぼ確実にセシルに剣の切っ先を見切ってるかのようにだ。 「セシルよ……仮初めでなく本当にその力を手にしたければ剣を納めるのだ。 そして自分の罪を受け入れるのだ」 再び、ささやく様な声が頭に流れ込んできたのは、暗黒騎士の反撃を避け、後退した時だ。 セシルにはその意外な言葉を咄嗟には理解できなかった。にわかには信じられない思いで上を見やる。 目前には今まさに暗黒騎士が迫ろうとしているところだ。迎え撃たねば此方がやられるであろう。 「何故だ……」 目前に迫る自分の闇を振り払う事こそが今の自分に課せられた試練ではないのか。 少なくともセシル自身はそう考えていた。 「相手を倒すことだけでは決して暗黒騎士には勝てんぞ。いずれは闇に取り込まれるであろう」 確かに暗黒騎士の攻撃は幾度と続くが、そのどれもがセシルの動きを的確に分析し、全てを見据えた かのように正確であった。 そして確実に彼の体から体力と気力を奪っていった。 「ここまでなのか……」 声の真意を理解できぬ自分では勝てぬというのか。この試練に散っていった先人達も教えを理解しなかった 為なのか。頭に様々な考えが浮かび、消えていく。 直後、暗黒騎士の剣先から黒い波動が走る。 今の疲弊しきったセシルではその攻撃を避けることはできなかった。いや、もしも充分な体力を 有していても無駄であったろう。幾多の暗黒波がセシルの体中を切り裂いた。 ――暗黒騎士にとってセシルという存在は最もよく知る人物であり、身近な存在であり、その逆も然りであった。 体勢を崩し大きく倒れ伏すセシル。後方には仲間達が心配するかの様な声をかけていたが、既にセシルには 聞こえていなかった。 それでは僕はどうしたらいいんだ……。 最後に浮かんだその思考も次第に切れ切れとなりセシルに意識は薄れていった。

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