二節 再開の調べ18

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トロイアは低地の国だ。西の山脈を除いた国土の大半が、海面と等しい高さにある。潮が満ちるたびに海水が河を遡り、高台につくられた町のすぐ側まで押し寄せるのだ。 その上げ潮に乗ってギルバートは運ばれ、彼を見つけた漁師の助けを借りて、この城までたどり着いた。神官への面会を願い出て、バロンの脅威を訴えた後、力尽きとそのまま城で世話になっているのだそうだ。 「リディアは?」 「……面目ない」 「可哀想に……  僕なんかより、ずっと立派に戦っていたのに」 少女の末路を聞かされ、ギルバートは初めて辛そうな表情を浮かべた。 痛んだ髪が張り付いた額にはひきつれた傷が走り、膿んで紫色に腫れ上がっている。頬の肉が大きく抉られ、線の細い輪郭を乱していた。手元の竪琴には錆が浮き、弦もほとんど切れている。 彼の音楽も、端正な容姿も、荒れる波が削ぎとってしまった。 「そんなことないさ。  君が……助かって良かった」 力付けようとセシルは口を開き、結局、『無事』という言葉を飲み込んでしまう。もっと話術を磨いてけば、と後悔したところで遅い。沈んだ空気を変えたのは、本来気を使われる側の人間だった。 「さっき、飛空挺の音がしていた……  あれは君たちだね?」 「その通りじゃ!  このシドとエンタープライズがついとるからには心配いらん!」 話題が得意分野に及んだと見るや、シドがセシルを押しのけて、ギルバートの前で胸を張る。 「後はワシらにまかせて、ゆっくり養生しなされ  あんたのことはセシルから聞いておる。たいそう世話になったとか」 「そうですか。あなたが……  ……っ!」 握手を求める技師の手を、一拍の間を空けてギルバートが握り返す。かと思うと、見る間に表情がゆがみ、ギルバートは体をふたつに追って激しく咳き込みだした。

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