一節 刻む足跡21

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『セシル……セシル……』 びょうびょうと吹く風に乗り、声はただセシルの名を呼び続ける。 セシルは思い切り首をひねり、潜むものの姿を捉えようと努力した。だが無数に続くかに見える棺と、同じく凍りついた副長の他は、彼に見えるものはない。 「この奥は……」 「禁域です。王以外は──」 王。 不意にセシルの呪縛は解けた。副長の返答に含まれた単語が、記憶を呼び覚ましたのだ。 墓所の奥に正対し、膝をつき、手を肩口に当てる。 『セシルよ……』 「──御前に」 どうか、僕の声が届きますように。祈りを込め、セシルは、彼を呼ぶおごそかな声に応えた。 何故すぐに気付かなかったかという思いと、たとえようもない懐かしさで震えそうになる声を抑え、頼むべき兵士であろうと努める。 『幻獣界との縁を見出せ……  お前の力になれるだろう』 「かしこまりました」 顔を伏せ、足元の床を見ていれば、その声はまるで、すぐ目の前からかけられているように思える。 堅牢な玉座に腰を据え、指示を下す主君の姿が、まざまざと脳裏に蘇った。

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