四節 これから28

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街の西北から北側にかけて広がる地下水路は、バロンで最も古い建築のひとつだ。北の河から引いてきた濠の水が、街で使われる地下水と混じらず海へ出るように流れを制御している。 それと同時に、城にかかる跳ね橋や門などを動かす仕掛けの大部分が集中している場所でもあった。 何頭もの馬に引かせてようやく動く重い扉を、レバーひとつで操作できるのはそういう理由だ。水の流れる勢いや、”時の歯車”と呼ばれる特別な品を利用しているらしい。 それらの機械を整備する役目を担ってきたのが、代々のシドの祖先だ。彼らが行き来する為に、水路の周辺には人が歩くための通路が設けられている。 そして賊に利用されぬ用心として、放水や可動式の壁、落とし穴といった罠が各所に仕掛けられていた。 「この線をたどれば、罠にかからず城まで行き着けるということか……  なかなかに周到な人物のようだな」 赤い色で強調された線をなぞり、ヤンが呟く。架空の侵入者が辿った行程は、複雑に枝分かれした通路を行きつ戻りつしながら、全ての仕掛けを避けて城に至る道筋を見事に探り出していた。 元々は、防御をより完全にするために検討していたのだろう。周辺の空白には、新たな罠の設置案と改修の見積もりが書き込まれている。 「工期からすると、実際の改良はされていないな……  まだ使えるはずだ」 「でも、鍵はお父さんが持ったままなんですよね」 逆向きに地図を覗き込んだレッシィの指摘に、ヤンが視線を泳がせる。 「……もしや、この中に無いだろうか?」 そういって彼は、懐から鍵束を取り出した。操られていた時に渡されたようだ。 形も大きさも様々な金属片を、レッシィがひっかきまわす。図案化された歯車と槌の組み合わせ──誉れ高きポレンティーナの家紋を、彼女はすぐに見つけだした。 「いいぞ!運が向いて来おった!」 「ああ……これなら何とかなりそうだ!」 配慮と幸運が噛み合ってもたらされた展望に、全員の意気が上がっていく。 その高揚を打ち砕くかのように、廊下の奥から物音が響いた。

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